台本なし、打ち合わせなしの即興演奏的トーク番組を書籍化! みうらじゅん&安齋肇の『笑う洋楽展』

エンタメ

2016/11/21

笑う洋楽展

著:
イラスト:
出版社:
マイクロマガジン社
発売日:

「『笑う洋楽展』の時間でございます」

 みうらじゅん氏のひとネタのあとのこの言葉で幕を開ける、NHK BSの深夜番組『笑う洋楽展』。内容は、MCのみうら氏と安齋肇氏が、毎回違うテーマ(「めがね男」「口パク女王」など)で集められた洋楽ミュージックビデオを鑑賞しながら、自由奔放なトークを繰り広げるというもの。台本や事前の打ち合わせは一切なく、その回のテーマすらふたりは聞かされていない。

 イラストレーター、ミュージシャンといった複数の顔を持つ両氏。ミュージシャンとしての共演経験もあり、公私ともに仲が良い。そんな両氏の息の合った掛け合いこそ最大の魅力といえる同番組を書籍化したのが、本書『笑う洋楽展』(みうらじゅん、安齋肇/マイクロマガジン社)。

 洋楽そっちのけとも取れる説明になってしまったが、現に両氏の会話は脱線続きである。顕著なのが、前述のみうら氏によるタイトルコール。百聞は一見にしかず、ということで本書に収められているうちのひとつを引用する。

「『最初だけチク~ッと、チク~ッとしますけど、すぐ終わりますからね』。『笑う洋楽展』の時間でございます』」

 だしぬけにこれだ。ちなみに元ネタは「人間ドックで採血する女医さん」。全編アドリブのため安齋氏の反応もリアルで、しかも大抵そのネタに乗っかり、一緒になっておもしろがっている。で、この回のテーマは「固めた髪」。まあテーマを聞かされていないのだから、テーマにちなんだネタもへったくれもないわけだが、あまりにも自由すぎやしませんか。

 当然、ビデオ鑑賞中もこの調子である。たとえば、テーマ「眠そうな目」の回では、ビリー・ジョエルの映像の途中で安齋氏が「汚い靴履いてるねえ」と呟き、これにみうら氏は「バイト帰りだわ、これ」と応じる。安齋氏の返しは「それも、屋上のバイトだね。雨の日の」。おまけにこの回の終盤で、安齋氏はテーマをすっかり忘れている。それをみうら氏に指摘されてしまい「いけね!」と我に返る、なんて一幕も……。

 どこまでも自然体な両氏の掛け合いの前では、洋楽ミュージックビデオも番組内の小道具のひとつにすぎない。洋楽を愛する両氏だからこそ、ミュージックビデオを心から楽しみながら、視聴者の笑いを誘う軽妙なトークを展開できるのだ。笑いが絶えない両氏のやり取りは、否応なしに見ているこちらの笑いも誘う。

 とはいえ視聴者・読者の中には、好きなアーティストがバカにされているようで不愉快と感じる人もいるかもしれない。実際、両氏が映像の揚げ足を取ったり、歌詞をでたらめな日本語で訳し始めたり、ときには作品の好き嫌いを率直に口にする場面もある。しかし、本書の巻末に収録されている座談会の中で、安齋氏は次のように語っている。

「僕は好きなアーティストのコンサートに行ったらすごく楽しいから、すごく笑ってるんですよ。そうするとまわりの人のヒンシュクを買うんだよね。でもね、笑うって最高の表現なんじゃないかって思うわけですよ。(中略)笑うっていう行為は、おいしいものを食べたり、大好きなものに出会ったりしたときと同じように、音楽を聞いたときの表現としては最上級の表現だと思うんだよね」

 反対派の存在を認識したうえで、それでも自身のスタイルを貫き通す。同じ座談会の中で、みうら氏の長髪にも同類のこだわりがあるのだというくだりがある。同じ表現者同士、通じる部分や共感する部分があって、お互いにそれを認め合う。そういう両氏の関係があってこそ、大好きな洋楽を「笑う」という同番組のスタンスが成り立っているのだろう。

 私も洋楽が大好きだ。本書を読みながら、同番組を見ながら、何度も声をあげて笑ってしまうほど好きだ。本書に収録されている、名画を題材にした洋楽スターたちのパロディ絵画にも大いに笑わされた。デビッド・ボウイ扮するオフィーリアに、エルトン・ジョン扮するナポレオンに。笑って、笑って、笑い倒した。最上級の称賛を込めて。

文=上原純(Office Ti+)

この記事で紹介した書籍ほか

笑う洋楽展

著:
イラスト:
出版社:
マイクロマガジン社
発売日:
ISBN:
9784896375961