コスメ雑誌では不可能なことをやる!女性向けモノマガジン『LDK』の驚くべき検証方法とこだわりの記事づくりの舞台裏

生活

公開日:2016/11/28

ジャンルによっては“科学のプロ”も企画協力

――商品テストの検証方法は驚くほど徹底していますね。気温や湿度など環境条件ごとの比較が必要な場合はそういう専門施設を借りて実験していますし、検証結果の分析についてはよくありがちな“読者モデル”とかではなく、その道のプロである研究者や識者に積極的に取材しています。

木村 有名無名問わず、その商品のことを非常によく知っていて、弊誌が求めているような視点を持っている識者というのは探せば結構いるんですよ。ただひとつ気をつけていることは、商品の宣伝に関するしがらみがない方を取材対象者に選んでいることです。何かしらのマーケティングにとりこまれている方は、どんなに素晴らしい実績があっても依頼はできないですね。

――12月号の「冬の物干しバイブル」という企画には、「科学のプロ」が勢揃いしています。「寒くて乾かない」を科学で解決するために流体力学専門の工学博士や、「日本風工学会」所属の大学教授、「暮らしの科学ハカセ」など、こういう方々をよく見つけてくるなぁ、面白いなぁと思いました。

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木村 洗濯物を乾かすためには、「湿度、風、干し方」の3つの条件について検証する必要がありますよね。湿度は何%だったら乾きやすくなるのか、風はどこから当てればいいのか、乾きにくい洋服の干し方にコツはあるのか。それぞれの最適な条件を検証するためには、やはり専門家の協力が不可欠ですので、適任だと思う方々にご登場いただきました。

――同じ号のコスメ特集では、本当に効果のある美白美容液を調べるために、モニターが実際に2週間使用した肌内部の潜在メラニン数を、ビフォーアフターの写真で掲載しています。これ以上の説得力はないと思うほどリアルですね。検証の仕方も編集部で決めているのですか。

木村 その特集の担当編集者とリーダー、編集長の3人で基本的に決めています。検証項目を打ち合わせするときは「なぜその項目が必要なのか?」「ユーザーはその商品のどんな性能を知りたいのか?」とことん話し合って決めています。

 美白美容液の比較検証で、特殊な機械で撮影した使用前と使用後のシミの写真をすべて掲載したのも、どのぐらいの変化があるのか目で見てすぐ確認できることが大事ですから。

論より証拠。高級コスメが必ずしもいいとは限らない

――広告ありきのコスメ雑誌では不可能ですね。新商品の宣伝が何よりも優先される世界ですから、『LDK』のコスメ特集とは向いている方向がまったく異なります。

木村 そうなんです。コスメ雑誌は美容に関心が高いコスメ好きの読者が対象ですが、LDKの読者の目的はそこじゃないんですよね。新しいかどうかよりも、使いやすくてコスパがいいとか、とにかく実用性重視ですから。以前、コスメ特集を担当した編集部員が話していたんですが、「ネットのコスメサイトやコスメ雑誌にも使用者の体験談が書かれているけれど、科学的な根拠はあまり重視してないんですよ」と。それよりは新しい商品に対してメーカー側が発表する「研究の集大成」とか「成分の進化」や「新しさ」を使用した人の主観で評価している、という構図なんです。使用感にしても「もっちり」「すべすべ」した“気になる”といったような心理的な評価が多いので、根拠がわかりにくいんですよね。

 もちろん科学的データにもとづいた評価に値する商品もありますけど、そのメーカー単体での検証だと他社の製品との違いがわかりません。また、値段が高ければそのぶん効果も高いのか? ということを検証してみると意外とそうでもなかったりするんですよ(笑)。今回のコスメ特集でもそうでしたが、3000円の化粧水より1000円の化粧水のほうが効果が高かった! なんていうことも普通にありますから。

――高級コスメのユーザーは、高い化粧品を使っていることの自己満足の対価として割り切っている心理的要因もあるように思います。

木村 そうだと思います。心理的な作用は大きいでしょうね。実際、高いものを使う喜びも確かにあるんですよ。でも『LDK』はそういう面は度外視していますので。

校了前にテストした商品パッケージのデータを総チェック

市販のビーフシチューをひとつひとつ検証

――使用済みの商品はどうされているんですか。

木村 読者モニターさんに使ってもらった商品はそのまま差し上げたり、プレゼント企画に回したりしています。ですから『LDK』のプレゼント欄には必ず注意書きで、「少し使用しているものも一部含まれます」と書いてあるんです。例えばこの前は、圧力鍋の並列テストをした後、使用済みの圧力鍋をプレゼントしました。ただ、食品は一度開けたら使い回しできないので、基本的に編集部員が必死に食べています(笑)。

――テストで使用する製品をすべて購入していると、原価率が恐ろしいことになりそうですね。

木村 原価率ははっきり言ってかなり高いです。『LDK』だけだと本当に話にならないくらいお金をかけてつくっていますね。ビジネスモデルとしてはありえない世界です。

――はじめて『LDK』を読んだときは、誌面構成の細かさにもびっくりしました。文字、データ、イラスト、写真ですき間がないほど情報が詰まっていて、どれも「へぇ~! 知らなかった」とか「そこが知りたかった!」とポイントをおさえたものばかり。綺麗なモデルや雰囲気でごまかさない潔さを感じます。

木村 大事な情報はすべて載せたいんですよ。なんとなく写真やイラストをポンと置くようなことは絶対にしたくないので、説得力や根拠をわかりやすく示すために写真にも必ずキャッチを入れています。見ただけで何を意味しているのかすぐにわかってほしいですし、パラパラめくっただけで他の雑誌と全然違うと思ってもらいたい。それだけ気合を入れて情報を詰め込んでいるのですが(笑)、レイアウトに関して読みにくいという声は意外と少ないですね。

――カップ麺の具をメーカー別にすべて数えあげたり大きさを比較したり、ほとんど遊びとも思える検証もあって思わず笑ってしまいました。

木村 基本的に暮らしのモノ選びって楽しくあるべきだと思うんですよ。商品をテストして否定したり批判したりすることが目的の雑誌ではないので、深刻になりすぎるのはイヤなんです。読者には商品の実用性を知ってもらうだけでなく、読んで楽しんでもらいたいので、誌面デザインも明るくポップにしていますし、結構、笑える検証ネタも多いですね。

とにかくみんな毎号汗だくになってつくっています

――これだけの内容の雑誌を毎月つくるのは本当に大変だと思いますが、12人という編集部員の数を考えるとひとりひとりのパフォーマンスが相当高いのでしょうね。

木村 そうなんです。おかげでこれだけ細かい検証企画もわりとスムーズに制作できています。もちろん大変なことはいっぱいありますよ。柔軟剤の並列比較のために一日中街のコインランドリーで実験していたスタッフが、怪しまれて職務質問されたこともありました(笑)。

 とにかくみんないつも汗だくです。ファンデーションの化粧くずれを調べることになったスタッフは、どうやって検証すればいいか考えて、温度を調節できる施設を探してそこに入ってみるとか。冬の乾燥度合いを調べるときは、湿度10%の部屋がある施設を探してそこへ入ってみるとか。そういう実験に使える施設や場所の情報もかなり集めています。

 先日はウイークリーマンションを一部屋借りて、そこへ100個以上買い込んできた100均の便利アイテムをスタッフにひたすら試してもらったこともありました。「もう会社に出勤しなくていいから一日一回報告してね」と言って。100均の商品って結局お値段なりなものが多いんですけど、時々お宝が紛れ込んでいるんですよ。それを探し出すためにひたすら使い続けてもらって特集を組みました。

――最近、反響が大きかったテーマがあれば教えてください。

木村 やっぱり収納ですね。なかでも11月号で特集した「捨てる収納術」。まず捨ててそこからどうするかという切り口はニーズが高いです。あとは100均とか無印良品の特集も人気があります。

年末特大号では1000個のプレゼントを用意!

――今、制作を進めている特集は?

木村 年末特大号です。創刊前から『LDK』でやってきた検証テストを振り返りながら、今まで取り上げてきた商品を総括する特集号ですね。創刊3周年記念の超保存版で相当気合を入れてつくっていて、プレゼントも1000個ぐらい用意しています。そこまで力を入れた特大号を出すのは、広告も宣伝もほとんどしていない『LDK』の知名度をもっと高めたいからです。コンビニでも販売していますけど、毎号「こんな雑誌があるとは知りませんでした」という読者はがきが多くて、まだまだ知られていないんだなと感じています。ですからもっと知名度を高めて、女性誌の常識を変えていきたいですね。『LDK』はクライアントのための雑誌ではなく、自分たちの雑誌だと知ってほしいんです。

――どの雑誌もできないことを『LDK』があなたの代わりにやってあげますよ、というスタンスですよね。

木村 そうそう! そういうことなんです。読者の味方になりたいんですよ。口コミは所詮口コミレベルで実証しているわけではありませんので、口コミの先を行きたいと思っています。ちなみに『LDK』ではスタッフの募集もしています。学歴、経験問わず、モノ好きの人で『LDK』で面白いことをやってみたい人はぜひご応募ください。

【前編】創刊3年で部数激増!徹底的なテスト検証で本当にいい商品を探し出す女性誌『LDK』が売れている理由

取材・文=樺山美夏