なぜ、母親は勝手に部屋に入ってくるのか?!――「ノックレスコミュニケーション」の被害に遭った人々の声『ババァ、ノックしろよ!』

エンタメ

2016/12/9

『ババァ、ノックしろよ!』(TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル/リトル・モア)

 中高生の頃に、ベッドの下に隠しておいたエロ本が学校から帰ると本棚に整頓されていたことがある。部屋の掃除をした母の手によって、片付けられていたのだ。読者の中にも、同じ経験をした人はいるのではなかろうか。それだけでなく、一人で「しているところ」に踏み込まれたという人もいるかもしれない。私はある。

 そんな母親からのゼロ距離攻撃、「ノックレスコミュニケーション」の被害に遭った人々の声を集めたのが本書『ババァ、ノックしろよ!』(TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル/リトル・モア)である。

 ラジオ番組のDJを務めるライムスター宇多丸によると、企画当初は自室での行為を母親に見つかってしまった的なネタばかりになってしまうことを懸念していたそうだ。しかし記念すべき一回目で番組ディレクターの逸話を取り上げたさいに、「勉強の合間に『AKIRA』を読む」といったような「それ自体は後ろめたくもなんともないはずの行為」ですら、母親からの突然の襲撃を受けると「心臓が止まるぐらいびっくり」してしまう様が面白く、「こういう感じもアリなら意外とイケるかも!」と思ったという。

 もちろん、冒頭の私のような一人行為の体験談もあり、「受験の重圧から来る心的外傷を紛らわせる」ためという投稿者の「色欲の一人遊び」なんて表現には脱帽した。宇多丸も「行為の表現の仕方が、ひとつの勝負どころでもあります」と述べており、同じようなシチュエーションの投稿での差異がまた面白い。

 そして被害に遭うのは男子ばかりではなく、ある女性投稿者は二十歳頃に自室で彼氏と「行為に及び」そのまま朝を迎えたら、母親によってふすまを開き放たれてしまったそうだ。上半身裸のまま「お、お母さん、ふすま閉めて!」と言う投稿者に対して、「閉めないわよ!」と返す母親。そのまましばらく、「閉めて」「閉めない」の攻防の末、ようやく閉めてもらい後で説教をくらったそうである。

 一方、反対の事例では、喘息で呼吸ができなくなり救急車で運ばれることもあった母親のことを日頃から気にかけていた女性投稿者は、高校三年生の頃に隣の部屋から母親の苦しそうな息遣いがして「お母さん! 大丈夫!?」と勢いよく障子を開けると、仰向けの母親と覆い被さる裸の父親のセックスを目撃してしまい、障子をそっと閉めたとか。

 これら親子の攻防における悲喜劇に気恥ずかしさを感じつつも、一気に読み上げてしまった。この気恥ずかしさの正体は、やはり母親の不動の愛情だろう。本書の表紙カバーのすみには「……でもね、お母さん、産んでくれて、ありがとう。」の言葉が添えられていて、そのままでは人前で読むには恥ずかしいと感じる読者のために表紙カバーはリバーシブルになっており、ひっくり返すと日本語以外の世界各国の言語で母親への感謝の言葉がちりばめられていた。

 読み終えて自分のことを振り返ってみると、中高生の頃に母は私が好きな漫画やアニメに関する新聞記事を見つけては、切り抜いて机に置いてくれたりした。それは、思春期で対話の少なくなった私との距離を縮めようとする母なりの心遣いだったのだろう。大人になって実家を出た今も変わらず、旅行のお土産などと一緒に新聞の切り抜きを持って家を訪ねてきたりする。今やネットで同じ記事は見られるのだけれど、その想いはやはり嬉しいものだ。だが、一つ問題なのは母親が合鍵を持っており、私が風呂に入ろうと部屋で服を脱ぎ廊下に出ると、裸で母親にバッタリ遭遇してしまうことだ。ババァ、呼び鈴鳴らせよ!

文=清水銀嶺