視力は0.3~0.4あれば問題ない!? 述べ10万人の視力や見え方を検査してきた認定眼鏡士が綴る“見えること”の本質

健康

公開日:2016/12/16

『「よく見える」の落とし穴 そのメガネ、コンタクトレンズ、視力回復法でいいですか?』(田村知則/講談社)

 学校の身体測定や免許の更新、コンタクトレンズを作る際など、さまざまな場面で測られてきた“視力”。幼いころは視力のよさを、同級生と競い合った記憶もあるだろう。しかし、大人になるにつれ視力は低下し、ぼやけた視界を前に切ない想いをしている人も多いはず。しかし、述べ10万人の視力や見え方を検査してきた認定眼鏡士(※1)の田村知則氏は「近視=『悪い眼』ではない」と、これまでの通説を覆している。

 田村氏の著書『「よく見える」の落とし穴 そのメガネ、コンタクトレンズ、視力回復法でいいですか?』(講談社)では、これまでよいこととされてきた“視力のよさ”について、疑問を投げかけている。視力の数値上の高さと、生活するうえで必要な視力は異なるという。人々が視力の数値の高さにこだわる理由について日本人の「視力信仰」に原因がある、と語る。

「視力検査自体は徴兵制とともに始まったものです。戦場では『遠くが見える眼』を持っているほうが生き残れると考えられ、視力検査が必要になったようです。(中略)たしかにその時代であれば、意味があったのかもしれません。しかし、戦時中とは『みる』環境が大きく変化している今、視力の価値観も変えていくべきでしょう」

advertisement

 著者のもとに訪れた高齢の男性は、「学校ではいつもB29の見張り役だったんですよ」と、誇らしげに話していたため、当時は“生きるため”に視力のよさが必要だったことがうかがえる。しかし、現代では遠くのものが見えることを一概には喜べないという。

 何百万年もの間、文字を読まず動物を狩っていた人類にとって、遠くが見えることとサバイバルしていくことは、深く関わっていた。しかし、大きな看板や標識、顔を近づけなければ文字が読めないスマホまで、我々の周りにあふれる文字の大きさはさまざま。遠くだけを見つづける、という状況はとても少なくなっている。

「人間はもはや、遠くを見て危険を察知することよりも、本を読む、パソコンを使う、スマートフォンや携帯電話を使うなど、近くを見るシチュエーションのほうが圧倒的に多くなってしまいました。21世紀のライフスタイルにおいては、むしろ近視のほうが有利な点が多いということです」

 年齢を重ねると、手元の文字にピントが合わせにくくなり“老眼”という状態になる。そのときはじめて近視のありがたみを感じられるという。生活環境や仕事内容など、個人の生活スタイルによって適した視力は異なるのだ。

 それらを踏まえて、田村氏が視力矯正を考えるときに基準にすべきと語るのは、「視力表の視力ではなく、現場視力」。

「たとえば、仕事場が6畳くらいの広さのワンルームで、デスクワークが中心であれば、視力は0.3~0.4あれば問題ないと思います。そのほうが眼の筋肉へのストレスは少ないですから。逆にデスクワークをする人の視力が2.0もあるとストレス増大です。見えているけれど、実際には調節筋、外眼筋ともに緊張が強く、首や肩がこってくるのは当たり前。体が悲鳴をあげてしまいます」

 2.0の視力があっても、生活に支障をきたしてしまえば元も子もない。数値上の視力のよさにこだわる必要がないことがよくわかる例だ。
 同書には、視力信仰にとらわれた人の対処法や、メガネとコンタクトの併用のススメなど、認定眼鏡士ならではの視点から、さまざまな視力との付き合い方を提案してくれている。“見えること”の本質に迫った一冊。

文=谷口京子(清談社)

(※1)公益社団法人日本眼鏡技術者協会が実施する検定資格