音楽の視覚的要素にのみスポットを当てると…。BSの人気深夜番組『笑う洋楽展』が書籍化! 爆笑ものの洋楽映像を紹介する音と無関係な音楽論

エンタメ

2017/1/7

『笑う洋楽展』(みうらじゅん、安齋 肇:著/マイクロマガジン社)

 音楽とは文字通り「音を楽しむもの」として知られている。しかし、ミュージックビデオ(MV)やライブ映像が流通するようになってからは視覚的な楽しみにも注目が集まるようになった。誰もが無料の動画サイトでミュージシャン本人の映像を鑑賞できる時代で、その傾向はますます強まっている。現代ではライブの演出やファッションもまた音楽の一部なのだ。

『笑う洋楽展』(みうらじゅん、安齋 肇:著/マイクロマガジン社)はそんな音楽の視覚的要素にのみスポットを当てる試みだ。NHK BSプレミアムで放送中の人気番組から爆笑回を厳選して一冊にまとめた本書でも、みうらじゅん氏と安齋肇氏の軽妙なやりとりは実感できるだろう。何より、読者は音だけではない音楽の楽しみ方に気づかされるはずだ。

 しかし、本当に音の話は全く出てこない。毎回「面長」「頭の振り方」といったテーマに沿って5本の洋楽VTRが流され、みうら氏と安齋氏がコメントをつけていくのだが、ほぼ全てが音楽性とは無関係の話題に費やされる。たとえば「見事なアフロ」というテーマでビリー・プレストン「ナッシング・フロム・ナッシング」のライブ映像が流されると、二人は延々とプレストンのアフロをいじりだす。

み これ、ハリネズミだよね。この頭。
安 もう、完全に生き物として違うよね。
(中略)
み シルバニアファミリーとかに入ってる感じがするよ。きっと、アーモンドとかうれしそうに食べるよね。

 そして、ソウル・ミュージック界の大スターに「カワイイ」を連呼するのである。また、「おでこ」というテーマで、シャーデーの「スムース・オペレーター」のMVが流された回ではこんなやりとりが繰り広げられた。

み おっ、窓からのぞくラブシーン。
安 窓開けて、こんなことしないだろ。
み カーテン買おうよ。これ、シャーデー?
安 シャーデーじゃないんじゃないの?
み 体つきが違うよね。
安 わかんないけど、でも、おでこは広かったよ。

 シャーデーがグラミー最優秀新人賞を獲得するきっかけとなった名曲MVも、二人の目に映るのは誰とも知れない女性のラブシーン、そしておでこだけである。ちなみに毎回、二人が一番気に入った映像がエンディングに流されるのだが、この回では「あの窓からのシーンが、シャーデーかどうかを確かめたい」という理由だけで「スムース・オペレーター」が選ばれている。もはや「おでこ」というテーマすら関係がない。

 悪ノリは続く。「くせ毛と直毛」という回では、テーマに沿っているのは80年代の人気バンド、ウィル・トゥ・パワーだが、楽曲的にはサイモン&ガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」が良かったとして、エンディングでは「サウンド~」に乗せてウィル・トゥ・パワーの映像が流される。きらびやかな80年代ファッションのBGMに牧歌的なフォークソングが流れている光景は、字面から想像するだけでも面白すぎる。

 ジョン・レノン、ミック・ジャガー、レッド・ツェッペリンなどの神格化されたレジェンド相手にも繰り出される、のほほんとしたいじりの数々に読者は笑いを堪えられないことだろう。しかし、二人は音楽愛が無いからミュージシャンたちを笑うのではない。そもそも二人は、自身でも音楽活動を行なっているほどの音楽ファンなのだ。巻末に収録された番組ディレクターとの対談で安齋はミュージシャンたちを「笑う意味」について語る。

笑うっていう行為は、おいしいものを食べたり、大好きなものに出会ったりしたときと同じように、音楽を聴いたときの表現としては最上級の表現だと思うんだよね。

 ミュージシャンの感性が独特すぎて笑えるときもあれば、ミュージシャン側も表現に悪戯心を込めることであえて笑われようとしているときもあるだろう。また、目立つためにとにかく必死で個性をアピールしようとしているミュージシャンもいる。そんなとき、リスナーの「笑い」こそが最高の賛辞になるのではないだろうか。本書はそんな新しい音楽との接し方を提案しているのだ。

 ちなみに、紹介されている映像を眺めながら本書を読むと面白さは倍増するので、是非とも試してみてほしい。同時収録されている名画のもじりも爆笑もの。

文=石塚就一