Jリーグが全てのクラブの目標ではない? ゴン中山も参戦した地方クラブの現実

スポーツ

公開日:2017/3/11

『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』(宇都宮徹壱/カンゼン)

「日本にはサッカーの文化が根づいていない」

 そんな問題は何十年にもわたって議論されてきている。確かに、スタジアムの熱狂にせよ、選手の戦術理解度にせよ、欧州のトップリーグとはまだまだ大きな差がある。それでも、日本には日本独自のサッカー文化が息づいていると考えるだけの軌跡が、各地に刻まれてきているのではないか。

『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』(宇都宮徹壱/カンゼン)は長年にわたって地方クラブの取材を続けてきた著者が、雑誌を中心に発表してきた文章をまとめた一冊である。中山雅史がアスルクラロ沼津で現役復帰を果たすなど、目を凝らせばJFLやJ3の地方クラブでも常に大きなドラマが生まれては消えている。他ならぬ我々自身のホームタウンで育まれてきた日本のサッカー文化は、地方振興を考えるうえでも大きな材料となるだろう。

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 日本プロサッカーの最高カテゴリは言わずと知れたJ1だが、J2ともなれば、サッカーファンですらチェックしている人は少なくなる。J3やJFL(アマチュアリーグの最高カテゴリ)ともなれば、サポーター以外で動向を追っている人は珍しい。しかし、著者は地方からJリーグを目指すチームや、あえて目指さない決断をしたチームの思いに惹かれ、全国を駆け巡ってきた。その現場には、テレビやニュースサイトでは報道されない熱量が存在していた。

 地方クラブの地元愛は強い。東日本大震災の直後、開幕した東北社会人リーグ1部には福島ユナイテッドFCの姿があった。彼らの練習場は常に放射能の恐怖にさらされ、開幕直前には多くの選手を引退や移籍で失った。そのうえ、ホームゲームの開催も認められないという問題を抱えながらも彼らが活動を止めなかったのは、「福島を元気にしたい」という気持ちがあったからだ。

 地元を思ってプレーするクラブを、地元も全力で応援する。元日本代表DFで2014年からブリオベッカ浦安のテクニカル・ディレクターを務める都並敏史も、猛烈な地元のサポートに驚きを禁じえない。ブリオベッカ関係者というだけで、地元のバス料金すら「いらない」と言われたことがあるという。

(前略)ブリオベッカについては情熱だけでやっている感じ。ただただ楽しいんですよ。

 サッカー界のレジェンドさえも虜にしてしまうブリオベッカ浦安サポーターだが、その背景には複雑な歴史がある。漁師町の名残を留める古くからの住民と、ディズニーランド誘致などの開発事業後に移ってきた新住民との間に交流がほとんどなかった浦安市にとって、ブリオベッカは両者を初めて一つにする可能性を持っているチームなのだ。

 2013年、JFLの中でJリーグ入りを目指すクラブを仕分け、J3が新設されたとき、世間の注目はJ3入りを果たしたチームに絞られてしまった。しかし、JFLに留まったチームは意識が低いわけでも、実力が伴っていないわけでもなく、それぞれがチーム経営の理想像を追い求めた結果としてJFL残留を選んだ。あくまでも、地元に密着した活動を続けるためにはJFLという選択肢が必要なチームもあったのだ。

本当に大切なことは、カテゴリーでも、もっと言えばタイトルでも目前の勝敗でもない。そこに愛するクラブがあり、目の前でゲームが行われていること。そのこと自体が実はフットボールファンにとっての至福と言えるのではないか。

 もちろん、下のカテゴリーになればなるほど厳しい問題も頻出してくる。特にクラブの運営は切実なテーマだ。サッカーだけでは十分な給料をもらえず、昼間は別の仕事をしながら夜の練習に勤しむ選手も多い。それでも、そんな厳しい状況でどうしてサッカーを続けるのかと言われれば、誰もが「サッカーが好きだから」と答えるだろう。そして、選手の思いが伝わるからこそサポーターも全力でクラブに尽くす。本書には、小規模なクラブだからこそ目に映る、クラブとサポーターの友愛が収められている。

文=石塚就一