手塚プロダクション公認! ブラック・ジャックの世界観をぶっ壊す?! “イタコマンガ家”渾身の一冊

アニメ・マンガ

2017/3/14

『#こんなブラック・ジャックはいやだ』(つのがい/小学館)

 一つのことを極めると、その人は“神”と呼ばれる。例えば、現役時代に卓越したバッティング技術で活躍したことから「打撃の神様」と呼ばれた川上哲治。大勝軒の創業者であり、つけ麺を日本に広めた山岸一雄は「ラーメンの神様」と称されている。そして、「マンガの神様」と呼ばれたのが手塚治虫その人だ。現代のマンガにおける表現の礎を作り、後世のマンガ家に今でも多大なる影響を与えている。

 そんな手塚先生の代表作の一つが『ブラック・ジャック』。無免許ながら、天才的な外科手術を行う闇医者ブラック・ジャックの活躍を一話完結で描いたものだ。私が『ブラック・ジャック』と出会ったのは中学1年生の図書室だった。手塚先生が医師免許を持ち、医学に精通していたこともあり、作品中の治療描写は非常に緻密で本格的。そして、「ブラック・ジャック」と患者の関係から生まれるサスペンス要素、医療の現場から見る“命”の衝撃、ブラック・ジャックの助手である「ピノコ」が生む、シリアスの中にあるユーモラスな一面は当時の私を夢中にさせたものだ。

 そんな不朽の名作『ブラック・ジャック』の世界観を“ぶっ壊した”マンガがSNSで配信されているのをご存じだろうか。スマホを片手にゆとり発言を繰り返す「ブラック・ジャック」に、突如現れた虫に本気で怖がり、叫びまくる「死神・ドクターキリコ」、そんなボケ倒す彼らをツッコミまくるのが、原作ではおちゃらけている「ピノコ」と完璧にキャラ崩壊が起こっている。

 そんなSNSで公開されたマンガと書籍化のための書き下ろし40ページが加えられた『#こんなブラック・ジャックはいやだ』(つのがい/小学館)が発売となった。原作では見せないキャラたちのボケ・ツッコミの応酬は思わずクスリと笑ってしまうのだが、注目いただきたいのは作者であるつのがい氏の作画。原作の独特なタッチを完全再現しており、ほとんど私が中学生の頃に見た手塚先生の『ブラック・ジャック』そのものなのだ。

 本書のメインとなる“珠玉のパロディ”は本書をご覧になっていただくとして、今回はパロディ以外の見どころを独断と偏見で選ばせていただいた。

■見ごたえのあるイラスト・ギャラリー

 本書の後半には、つのがい氏が手掛けたイラストが18点掲載されている。『ブラック・ジャック』のキャラがメインに描かれているが、他の手塚作品のキャラクターとコラボしているものも。イタコマンガ家・つのがい氏の画力を存分に堪能できる。補足だが、中にはシュールなネタになっているイラストもあり、個人的に『ポテト揚げるやつの音~てぃろり・てぃろり~』という作品がお気に入りだ。某ファストフード店のポテトが食べたくなる。

■つのがい氏の半生をつづったアトガキマンガ

 手塚タッチの完コピを成し遂げたつのがい氏。きっと何年も修業を重ねて…と思いきや、つのがい氏がペンを握り始めたのは1年半前。しかも、マンガはほとんど読んだことがなく、描いたこともなかった。「忘年会の一発芸で披露できれば」と気軽な思いで始めたのがきっかけだったという。ちなみに『ブラック・ジャック』は知っていたが読んだことはなかったそう。その後、本格的にマンガ家を目指すようになるまでの道のりを描いている。

■時には真面目なマンガでほっこりと

「正気に戻るの章」では、手塚先生の誕生日である11月3日にブラック・ジャックのキャラクターたちがお祝いをするというもの、手塚先生の行きつけのお店を題材にしたもの、ピノコとブラック・ジャックの笑い一切なし、本家とはまたひと味違うほっこりするエピソードが掲載されている。この章を見れば、つのがい氏が『ブラック・ジャック』、そして手塚治虫という人物を大切に想っており、“真面目に”ふざけながらマンガを描いている、そんなことが感じられた。

 私はマンガ・アニメが好きだ。新たなアニメやマンガとの出会いはワクワクする。そして、新しく生み出されるマンガ・アニメは、過去に活躍したクリエイターの汗と涙の結晶の上に成り立っている。そんな偉業を脈々と繋ぎ、伝えていくことは“創造”と同じくらい大切だ。その大切な“伝える”という仕事をつのがい氏が『ブラック・ジャック』のパロディを通して、担ってくれているようで、本当にうれしい。きっとこのようなクリエイターがいれば、手塚先生の作品や想いは不滅なのだろう。

文=冴島友貴