尾田栄一郎が『ONE PIECE』の連載前に描き上げた『WANTED!』全5話の魅力!

アニメ・マンガ

2017/3/27

 モンスター級の人気を誇る『ONE PIECE』(尾田栄一郎/集英社)。それゆえ20年以上も連載が続き、今でもファンをどんどん増やし続けている。最近ファンになった読者の中には、尾田先生が連載を始めてまもなく出版した短編集『WANTED!』(尾田栄一郎/集英社)を知らない方も多いのではないだろうか。

 本書には、よりワンピースの奥深さにふれる魅力がたっぷりつまっているのだ。そこで今回は『WANTED!』より、尾田先生がワンピースを連載する前に書き上げた全5話をご紹介したい。

 

WANTED!

 尾田先生が高校生の頃に書き上げた、西部劇を題材にした作品だ。不運にも交通事故に遭って鼻の骨を折り、それでも締め切りのため根性を出して描きあげ、手塚賞準入選を果たしたいわく付きの作品でもある。

 主人公のギル・バスターは凄腕のガンマン。その強さは、賞金稼ぎで最強と言われたワイルド・ジョーをあっさり殺してしまうほど。殺されたジョーは怨念によって幽霊としてギルの前に現れ、復讐を企む。

 尾田先生は高校生の頃から遊び心を持っていたようだ。主人公のギルは賞金首でもある。そのためギルの賞金首ポスターが建物の壁に貼られているのだが、その横にはストーリーに登場しない別の賞金首のポスターも貼られている。その賞金首の名前を見ると「HENNA OYAG(変なおやG)」と書かれている。これを見てニヤッとした読者もいるだろう。

 本作品では、ウソップがエニエス・ロビーで「CP9」スパンダム長官を司法の塔から撃ち抜いたシーンと似ている場面がある。きっと『WANTED!』を読んでいた読者は、ウソップが司法の塔で決めポーズをしたとき「うおおおお! このシーン見たことあるぞ!」となっただろう。短編集を読む楽しみは、こういうところにもあるのかもしれない。

神から未来のプレゼント

 本作品は、スリの常習犯ブランが神様の迷惑に巻き込まれる運命マンガ。ブランの愚行に業を煮やした神様は、ブランを裁きによって殺すことに決めた。書いたことが現実に起こってしまう“運命のペン”を使い、「ブラン家に隕石が落ちる」と手帳に書き上げたのだ。この裁きによって家に隕石が落ち、ブランは死ぬはずだった。しかしこの神様はアホだった。手帳に誤って「ブランチに隕石が落ちる」と書いてしまったのだ。ブランチとは大型百貨店の名前。愚か者1人を裁くはずが、罪のない大勢を殺す運命が回り始めた。果たしてブランはブランチの客の命を救うことができるのだろうか。

 尾田先生が大学生の頃に書き上げたという本作品。(尾田先生の自画自賛より)内容が非常によくまとまってお り、読んだ後のスカーッとした気持ちがたまらない。初期のワンピースに見られる切れ味鋭いギャグも味わえる。スリの常習犯のブランだが、いざというときにはお人よしな一面もあり、なんだかワンピースの登場人物たちに似ている。

一鬼夜行(いっきやこう)

 その昔、化け物退治を趣味のように続けているお坊さんがいた。しかしそのお坊さんは寺を出てから5年も帰ってこない。そこでお坊さんの弟子である愚公がお師匠を探す旅に出かけた。その旅の途中、一晩泊めてもらおうとある村に立ち寄った愚公。しかしその村は“人食い”化け物に悩まされていた。化け物退治の心得など全くなかった愚公だったが、断り切れずに村の古寺で一泊することに。震えながら夜を明かす愚公のもとにやってきたのは…。

「あー戦うお坊さんってなんか良さげ」という思い立ちで書き上げられた本作品。主人公の愚公を見ていると、ウソップを思い出してしまう。普段はなよなよしていて頼りない人物だが、覚悟を決めたときや男をみせる瞬間の表情はそっくり。尾田先生の初期の画風で描かれる人食い化け物の顔は、現在のワンピースでは味わえないリアリティがちょっぴりあるところも魅力。

MONSTERS

 スリラーバーク編で登場した、空飛ぶ竜を斬り落とした伝説を持つ侍“リューマ”。そのリューマとされる人物が本作品に登場している。個人的には、この作品が現在連載されているワンピースに最も近いと感じた。これぞワンピースという、読んだ後の爽快感と登場人物の内面の奥深さがある。

 ある街に侍リューマが腹を空かせてやってきた。同じタイミングで世界に名を馳せる剣豪シノラと三流剣士ディーアールがその街を訪れていた。絶対の恐怖を意味する“竜(ドラゴン)”が天空を舞っていたこの時代。剣豪リューマの伝説がついに生まれる。

 リューマの迫力ある表情が光る本作品。海賊の高みである、人としてあるべき姿を体現しようとするルフィと、侍として“兵の魂(つわもののこころ)”を体現しようとするリューマ。どちらも強者が備える“生きる覚悟”を持っており、男として憧れる生き方に目が染みる。ストーリーの最後にリューマが放つ言葉も心にくる。ワンピースが好きな方なら、この作品も絶対に好きになるだろう。

ROMANCE DAWN

 こちらはワンピース第1話「ROMANCE DAWN―冒険の夜明け―」のプロトタイプ。尾田先生はワンピースを連載する上で、海賊を題材にした読み切りマンガを2作書いており、そのうちの1作がこの『WANTED!』に収録されているのだ。ちなみにもう1作は「あまりにワンピース第1話のプロトタイプだった」ということで収録を見送ったとのこと。

 モンキー・D・ルフィは小舟で航海をしていた。しかし突如上空からバカでかい鳥が落ちてきた。鳥の落下で小舟に穴が開いてしまい、困ったルフィ。ふと見上げると巨大な海賊船が。そこには鳥の飼い主である女の子アンが捕まっていた。

 「ROMANCE DAWN―冒険の夜明け―」とはまた違うストーリーが展開される本作品。ナミをショートヘアーした顔立ちのアンの強気な立ち居振る舞いが新鮮だ。なによりこの作品のルフィは、現在のルフィよりちょっぴりクール。初期のルフィに近いと言うべきだろうか。しかし仲間を大事にするルフィの魅力はすでに表れており、プロトタイプの頃からルフィの信念は固まっていたようだ。

 以上、『WANTED!』に収録されている5話をご紹介した。全体を通しての印象は、ワンピースで度々炸裂するギャグは、尾田先生が高校生の頃から出来上がっていたということ。戦闘中に飛び出すボケや細部にこだわる遊び心もいたるところに描かれている。そしてすべての主人公が持つ“信念”も見事に表現されており、尾田先生の大人になるスピードの早さに舌を巻く。

 ちなみに尾田先生が海賊マンガを描こうと思い至ったのは中学生の頃。当時はマンガ家としての技術はなく、ノートとペンで描いていたそうだが、ノート1冊を費やしても書ききれないことが判明し、「海賊はジャンプで連載するまでとっておこう」と決めたそうだ。中学生の頃からやんわりと構想があったというならば、これほどの化け物マンガになったのも納得できる。『WANTED!』の随所に見られるワンピースらしさも合点がいく。よりワンピースの魅力の奥深さにふれることができた1冊だった。

文=いのうえゆきひろ