キャリア? 結婚? 大阪で主婦となったエリート米国人博士の人生から見る。幸せって何ですか?

恋愛・結婚

2017/4/24

『米国人博士、大阪で主婦になる。』(トレイシー・スレイター:著、高月園子:訳/亜紀書房)

 人生の岐路に立った時、それが大きく分かれて進む道であればあるほど誰しも大きな迷いを持つことでしょう。

 働く女性が増えているとされていながらもまだまだ女性の継続就業率が低い日本。そんな日本という国へMBA取得のための講師としてやってきて、教え子のひとりである日本人男性と恋に落ち、人生の計画外の結婚をしてしまったと語る女性がいます。アメリカの典型的なキャリアウーマンとして多くの活躍をしていながら大阪で主婦となったアメリカ人女性です。

 日本で結婚するという選択をすること。それはボストンでの生活、アメリカでの高いキャリア、母国、アメリカに住む家族や友人といった、手にしている価値あるものを失うことになるかもしれない。そんな強い不安や葛藤、大きな未練を持ちながらも彼女は日本で主婦という新しい人生の道を歩む決断をします。『米国人博士、大阪で主婦になる。』(トレイシー・スレイター:著、高月園子:訳/亜紀書房)は、先の見えない新しい道を歩んでいく中で次々起こる想定外のできごとを自身の想いとともに鋭く、時にユニークに綴った自伝です。

「男に依存する」「毎日晩御飯を作る」「伝統的な核家族を形成する」

これは著者が人生で決して犯さないと自らの誓いとして掲げていた人生のスローガンです。ところが、アメリカの一般的な高学歴女性の環境とは異なる社会を持つ日本で、計画通りのキャリアを進み始めていた著者が真逆の生き方を選び、手にしていたあらゆるものを捨てる人生へと進みます。そして新しく選んだその道ではまったくの計画外となる、さまざまな経験をしていくのです。

 今まで強い独立心をもって生きてきた著者は、見知らぬ国・日本で男性に守られて過ごすという、初めて感じる居心地の良さに幸せを感じます。しかし一方で人生のさまざまなものを日本へとシフトすることにより“私”を失いたくないと、ささやかな抵抗として日本語を覚えることを拒否しようとしたりもするのです。教師として立派に働いているにもかかわらず「シュフ」と自称する、家の掃除が趣味な日本人女性への強いカルチャーショックを受けるなど文化や考え方の違いに不安を持ち、日本での結婚に迷う日々。しかし、たくさんの迷いの中で出した決断は結婚してみるというリスクを冒すことでした。

 結婚後もさらに壁が立ちふさがります。40歳を過ぎて突然湧いた子どもを持つということへの関心、不妊治療、流産といった自分の努力や力だけではどうにもならない現実との闘いの日々。家事嫌いで根っからのキャリアウーマン気質であった著者が、アメリカでは奇妙に見られる義父との同居、認知症やパーキンソン症候群などを患う義父の介護にもトライするのです。

 成年期の環境により「揺るぎないシナリオを手にしているという幻想にしがみつきながら過ごし」てきた著者は、シナリオ通りに進まなかった人生の経験から得た想いを次のように語っています。

「まず何かに自分を見失わせないかぎり、自分自身を正しく発見することはできない」

 人生なんて何が起こるかわかりません。自分が意図していない想定外のできごとにより手にしているものを手放さなければいけなくなることもあるでしょう。描いていた人生に向けて一生懸命積み重ねてきたことが崩れ落ちてしまったり、方向転換を余儀なくされたりする場面もあるかもしれません。それを人は「挫折」と呼ぶこともあります。「負け」と感じる人もいることでしょう。

 しかし本書を読んでいるうちに幸せはひとつではない、突然訪れる運命に導かれた予想もしない人生が計画通りの人生より幸せとなることだっていくらでもあると、ふと気付くのです。ひとつの目的に向かって頑ななまでに突き進もうと必死になっていた気持ちがふっとやわらぎ、今まで気付くことすらなかった他のとても心地よい道の存在に気付いたりするのです。

 5年後、著者は難しいと言われていた子どもを授かり、スローガンに掲げていた生き方とは正反対の幸せな人生を歩んでいます。

 人生なんて何があるかわからないからおもしろい、そんな風に感じさせてくれる本書。脇目もふらず頑張り続けているあなた、ワークライフバランスの取り方に悩んでいるあなた、自分らしい生き方や本当の幸せとは何かを探っているあなた。ぜひ、大阪の主婦となった米国人エリート博士の人生とともに、今一度自分の人生のあり方を見つめてみませんか。

文=Chika Samon