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Twitter上で爆発的人気を誇るマンガ家・世紀末。初めての作品集『殺カレ死カノ』でどうしても伝えたかったこととは?


『殺さない彼と死なない彼女』(世紀末/KADOKAWA)

 ここ数年増えている「SNSマンガ家」。主にTwitter上で自作の作品を発表している人たちのことだ。彼らの中には、作品を発表するたびに数千、時には数万の「いいね」がつき、リツイートによって拡散される人たちがいる。3月23日(木)に、初の単行本『殺さない彼と死なない彼女』(KADOKAWA)を上梓した〈世紀末〉さんも、そんなSNSマンガ家のひとりだ。

 ちょっと不穏さが漂うタイトルを冠した本作は、主に3つの短編で構成されている。かわいいことを自認している〈きゃぴ子〉の恋愛ストーリー、何度フラレても意中の男子に告白し続ける〈君が代ちゃん〉の日常、そしてツンデレ系彼氏と付き合う〈死なない彼女〉の少し変わった恋愛観。これらの短編に登場するキャラクターたちは、みんなとても不器用で、悩みながら生きている。

 しかし、彼女たちをただの「おかしい人」とは言い切れない。みんな自分の想いに真っすぐで、ありのままで生きようともがいているだけなのだ。そして、それは誰の心にもある衝動。世紀末さんはそれを表現したことにより、爆発的な支持を得ることとなった。そう、まさに時代に求められて誕生した新世代のマンガ家といえるのかもしれない。そこで今回は、そんな気鋭のマンガ家・世紀末にインタビューを実施。作品が生まれたきっかけについて聞きつつ、描き下ろしマンガも作成してもらった!(なんて豪華!)

中途半端な絵と字でも、組み合わせることで何かを伝えられる

 世紀末さんは、連作4コマというスタイルをとっている。さくっと読めるエピソードを重ね、ひとつのストーリーを紡いでいるのだ。そして、さらに、絵柄については非常に簡素。背景の描き込みもなく、細い線で描かれたキャラクターたちの掛け合いのみが展開されていく。しかし、だからこそ、それぞれのキャラクターが発する言葉がやけに沁みる。「1人はガマンできたけど、独りは耐えられないわ」「私、幸せな夢なんてみたくなかったのよ。夢から覚めた時、現実を不幸だと勘違いしてしまうわ」。これら哲学的なセリフが随所に登場する。そんな作風になった理由を、世紀末さんは次のように語る。

「私は頭が良くないので、中途半端な絵と字ですが、組み合わせることで誰かに何かが伝わるだろうと思って描き始めたんです。ただ、本当に自分の描きたいものしか描いていないので、(読者の反応が)不安で泣いていたら、担当さんに『お前はまだ俺が信じられんのか』と怒られて。それで『違う、私は自分が信じられないんだ』と反論したところ、『お前は自分のことなんて信じなくて良い。俺を信じろ』と言われて気持ちが楽になったんです。後から、その言葉が『天元突破グレンラガン』に出てくるセリフだと暴露されて、『なんじゃそりゃ!』ってツッコミましたけど(笑)」

 担当編集者に励まされながら描き上げた本作。実に多種多様なキャラクターが登場するが、世紀末さんのお気に入りは〈死なない彼女〉ちゃんだという。

「シカノ(死なない彼女)は、すぐに泣くけれど、おいしいものを食べるとケロッと笑うところがかわいいんです。実際、私自身がすぐに泣いてしまうタイプなので、彼女みたいにケロッと笑えるようになりたいという願望もこめています。見た目も描きやすいし、目のカタチも一番気に入っているんです」

 「死ぬ」と叫んでいたシカノがアイスを食べてニッコリ笑う。それだけでも不思議な読後感だが、さらに彼氏の「食べたらちゃんと死ねよ」というセリフの破壊力たるや。この1本だけで世紀末さんの作風がわかるのではないだろうか。

悲しい経験をした人たちに「寄り添う」マンガが描きたい

 シカノが一番お気に入りのキャラクターだという世紀末さん。やはり、エピソードとして見ても、シカノが登場する表題作「殺さない彼と死なない彼女」を気に入っているんだとか。

「もちろん、どの短編エピソードも気に入っています。だけど、やっぱり『殺さない彼と死なない彼女』は別格。泣きながら描き上げましたし、このタイトルで本を出すことができて本当にうれしく思っています。(本作に収録されている)結末まで読んでもらうと、この本の意味がわかってもらえるんじゃないかなって」

 本作のエピソードにはどれも世紀末さんの経験が色濃く滲んでいる。「殺さない彼と死なない彼女」もそう。そして、このエピソードは衝撃的な結末を迎える。Twitterの投稿から世紀末さんのファンになった人にとっては、もしかすると受け入れがたいものかもしれない。さらに、あとがきでは世紀末さんの悲しい過去も明らかにされる。

「あとがきで自分のことを語ったのは、どういう気持ちでこの本を出したのか読んでくれた方に知ってもらいたかったから。後になって、やっぱり描かなかった方が良かったのかな、と悩みましたけど、読者の方から『全部描いてくれてありがとう』という言葉をいただいて、間違ってなかったんだ、と思いました」

 初めての作品集で自らの過去をつまびらかにした理由はひとつ。ひとりでも多くの人に、「大丈夫だよ」というメッセージを贈りたかったからだ。

「大勢の方に、大丈夫だよって伝えたかった。大切な人と別れた時、どんなに強い人でも悲しくなるときがあること、眠れずに泣いてしまう夜があることを私は知っていたので、そういう経験をした方たちに“一緒に泣いて寄り添う”ような気持ちでこの本を作ったんです」

 今後の目標を問うと、「やっぱり恋愛マンガが描きたいです」と力強く語ってくれた世紀末さん。彼女が紡ぐストーリーは、どこかやさしく、現代人の心の隙間にすっと入り込んでくる。

 そして最後に、交流の深いマンガ家・森もり子さんと、クリエイター・ざきよしちゃんのワンエピソードを描き下ろしてくれた。

 ……うん、すごくシュール。しかし、このように日常の些細なできごとを切り取る力を持っているからこそ、世紀末さんの作品は大勢の共感を集めるのだろう。時代が産んだ気鋭のマンガ家が今後どのような活躍を見せてくれるのか、いまから楽しみでならない。

【連載】はこちら『殺さない彼と死なない彼女』第1回「きゃぴ子 その1」

取材・文=五十嵐 大
マンガ=世紀末



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