早く乗らないと後の祭り……哀愁漂うローカル線が抱える難問とは?

暮らし

2017/5/10

『絶滅危惧鉄道2017 今こそ訪れたい路線、降りたい駅、乗りたい列車を完全網羅!!』(イカロス出版)

 いつも使っている鉄道が今月限りで無くなるとしたら……。もしそうなれば、私は慌てて運転免許を取りに行くだろう。免許が取れるまでは、バスや別の路線に頼るほかない。普段、電車には乗らないという人はともかく、ほぼ毎日電車に乗るような人にとっては大問題である。

 身近な路線が無くなるというのは、つまりそういうことだ。『絶滅危惧鉄道2017 今こそ訪れたい路線、降りたい駅、乗りたい列車を完全網羅!!』(イカロス出版)では、現時点で廃止が決まっている全国の鉄道路線や駅、車両、さらに廃線の危機に瀕している路線などを紹介。それぞれの過去と現状を解説している。

 今回、本書を執筆したライター・鼠入昌史氏にインタビューを行なった。JR北海道を筆頭に、なぜ廃線を免れられない路線があるのか。また、そんないまだからこそ乗っておくべき鉄道についても聞いた。

――2016年11月に、北海道の鉄道の約半数が単独維持困難であることをJR北海道が公表しましたが、主な原因は何なのでしょうか?

「そもそも、人口の少ない地域で鉄道事業を黒字化することはかなり難しいということがあります。車両や軌道の維持コストなど、鉄道はランニングコストがとにかくかかる。さらに北海道では人口の少ない地域を通る長大路線が多いこと、積雪・寒さといった気象条件など一層厳しい環境があるんです。JR北海道発足以降も過疎化は進む一方で、高規格道路の整備などもあって交通手段が多様化したことも追い打ちをかけた。北海道の鉄道が存続の危機に陥っている背景にはこうした事情があります」

――ただでさえ厳しい条件の中で、過疎化や道路の整備によって鉄道の利用価値が落ちてきた、と。でも、こうしたことはJR北海道発足時からわかっていたことでは?

「もちろんその通りです。ですから、国鉄の分割民営化に伴って1987年にJR北海道が発足した時点で、経営安定基金を設けてその運用益で鉄道事業の赤字を補填するスキームも作られました。この経営安定基金はJR北海道のほか、JR四国・JR九州のいわゆる三島会社に設けられており、発足時点から鉄道事業での黒字化は難しいと国も判断していたということなんです。さらに国鉄再建の過程でJR発足前後には多くの赤字ローカル線廃止も行っています」

――JR北海道発足時から赤字が見込まれていたから、最初から下駄を履かせてもらっていた…ということですね。しかし、30年経ってそれでも路線の維持が難しくなってしまった。それは、企業努力が足りないから?

「バブル崩壊による経営安定基金の運用益の減少などもありますが、ここ数年の事故・トラブルの続発などを見る限りは企業努力不足を指摘されても仕方がないといえるでしょう。もちろん何もしてこなかったわけではなくて、車両や軌道の改良で高速化を進めたり経営の多角化にも取り組んだりしています。ただ、現実にはそれが実を結んだとは言えません」

――なるほど。こうした事情は北海道に限った話なのでしょうか。

「残念ながらそうではありません。鉄道路線の存続という点では、今年度限りで中国地方の三江線が廃止されることが決定しているなど、地方ローカル線は全国的に厳しい状況にあります。昨年にはJR九州の上場という明るい話題もありましたが、そのJR九州にしてもほとんどの路線は赤字だといわれています。人口の減少と地方の衰退が加速すれば、今後もますます鉄道路線の存廃問題が出てくるでしょう」

――こうした状況を打開することはできるのでしょうか。

「どの事業者も利用者の確保に懸命です。最近ではひたちなか海浜鉄道やえちぜん鉄道などは廃止寸前から復活した路線のひとつとして取り上げられることも多いですね。これらの路線は廃止危機がきっかけとなって住民のマイレール意識が醸成され、地元住民の日常的な利用者が増えたという点が共通しています」

――マイレール意識とは?

「一言で言えば、自分たちの街をはしる鉄道を自分たちのものだと思い、人任せにせずに存続のための努力をしようという意識です。鉄道存続のためには、観光に特化するのも手ではありますが、一番大きいのは定期券利用者を増やすこと。それには地域の人の協力が不可欠です。その上で観光促進策と結びつけば、地域全体の活性化につなげることもできる。現実的に黒字化が難しいローカル線では存続のために税支援は不可欠。ならば、路線単独ではなく、鉄道が地域全体の黒字化にいかに貢献するかという視点も必要になるでしょう」

――地域の人々の愛が鉄道を救うわけですね。では最後に、いま乗っておくべき路線をひとつ教えてください。

「どれも視点によって見どころがあるので、難しいですが……では、島根県のJR三江線はいかがでしょうか。中国山地の中を江の川に沿って平均時速30kmというノロノロ運転(笑)で走る。来年3月いっぱいで廃止される予定なので、今乗らないと二度と乗れない路線です」

 大切なものは往々にして、失って初めてその大切さに気づかされる。廃線が決まった鉄道たちも、そんな風に惜しまれ続ける存在だったらいいなと思う。

文=上原純(Office Ti+)