「介護」で大切なのは「がんばらない」こと。事前の準備と危機脱出のあらゆる“コツ”

社会

2017/5/10

『がんばらない介護』(橋中今日子/ダイヤモンド社)

 「介護」ほどイメージに“格差”のある言葉もないかもしれない。経験のある人とそうでない人とで感じること知っていることが天と地ほど違うからだ。今は関係ないという人も、介護と無関係でいられる確率はきっと低い。世界でも類をみない超高齢化社会に突入しつつある日本。いざという時にパニックに陥ったり、ストレスで参ってしまったりしないよう、心がけておきたいことがある。

 がんばらないこと。つまり、無理をしてしまわないこと。真面目な日本人は、いざ介護に直面すると、周囲に多くの助けや理解を求めることなく、自力で何とかしようとしがちだ。しかし、不自由がある1人の人間を支えることは並大抵のことではない。

 問題は山積しているものの、国の制度はかつてより整いつつある。介護保険制度をうまく利用し、介護のプロに相談し、より良いサービスを受けよう。身を削らなくても大丈夫と優しく説いているのが『がんばらない介護』(橋中今日子/ダイヤモンド社)だ。

 著者の橋中今日子さんは、認知症の祖母、重度身体障害の母、知的障害の弟を1人で21年間も介護してきた理学療法士。介護する人の気持ちを知り尽くす医療関係のプロが、介護する側とサポートする側の架け橋のように、こんな時にはどうすればいいかを具体例とともに詳しく明かしている。

■困ったら、“介護のよろず相談所”地域包括支援センターへ。

「認知症ねっと」よると、厚生労働省の調べで2012年時点で認知症を発症している人は約462万人。さらに、2025年には700万人に上ると試算している。これに認知症の前段階といわれるMCI(軽度認知障害)の患者を合わせると、実に約1300万人。つまり65歳以上の3人に1人が認知症患者とその予備軍になるという。

 日本には身近に認知症の人がいる。家族がそうなったらどうすればいいのか。病院や役所だけでなく、介護にまつわるよろず相談所の役割を果たすのが、地域包括支援センターだ。

 全国の市区町村にあり、地域によっては「高齢者相談センター」「高齢者あんしんセンター」「ケアプラザ」といった名称を使っているが、インターネットで「地域包括支援センター」と「地域名」を入れるとたくさん出てくるので、最寄りを覚えておくと安心だ。

 地域包括支援センターは、介護にかんするあらゆる相談にプロが応じてくれる。行政や関係機関をたらい回しにされることなく、介護についてはケアマネージャーが、医療については保健師が、高齢者の生活支援や権利擁護については社会福祉士が、といったように、ここに行けばワンストップでそれぞれの専門家に話をすることができるのだ。

 介護保険の仕組みは複雑でどんどん変わっていくし、介護はプロのサポートなくしてできるものではない。介護する人は心身ともに疲弊してしまわないよう、それぞれの専門家とマメに相談していきたい。

■人生を犠牲にしない、会社もやめない。「介護休業」「介護休暇」のすすめ

 家族を介護するために、仕事を犠牲にする人がいる。本人にゆとりがあって望まない限り、それは人生をも犠牲にしかねない。同書には、そうならないための“処方箋”も実際の話とともに語られている。

 まずは、会社には事情を話すこと。急に早退したり休んだりする見通しについて、できるだけ詳しく状況を伝えることで、会社側はその場合のバックアップに備えることができる。介護離職がクローズアップされている今、理解は進みつつある。人事にも伝えておくといい。同書では、理解を得にくい場合の事例も、まるで相談にアドバイスを返すかのように紹介されている。

 家族を介護する人には、賃金の67%が支給される「介護休業」(最大93日)と有給休暇を使わずに済む「介護休暇」(家族1人につき年5日)がある。今年から、介護休業は3回まで分割でき、介護休暇は1日単位はもちろん半日単位でも取得できるようになったが、一般にあまり知られていない。

 例えば、介護関係の手続きを行うために半日の介護休暇を利用したり、退院してからの介護体制を整えるために介護休業を1か月取ったり、といった使い方ができるのだ。

 いざという時、どこに何を相談し、どんな制度があるのか。どんな心構えでいればいいのか。ひとたび介護となれば、やることと悩みは尽きない。そのうちに職場や家族、友人とも疎遠になったりトラブルが起きたり。介護離職、介護うつ、介護殺人や心中など悲しいニュースは後を絶たない。同書はそんな世の中の救いの手引き。未来を悲観することなく、心強く励まされる。

文=松山ようこ