彼女が出来たら、即打ち切り!? 31歳童貞マンガ家が描く、「彼女が出来るまで」の泥臭い恋活ストーリー

マンガ

公開日:2017/5/13

『僕に彼女が出来るまで』(佐藤ダイン/集英社)

 恋愛に対する考え方や価値観が様変わりし、多様性が認められるような時代を迎えた。しかし、それでもなお、世の男性陣を苦しめているものがある。それは、童貞か否か。「ジェンダーレス男子」と呼ばれる新種の男子たちがメディアで「恋愛経験ゼロ」を公言していたりもするが、やはり自身が童貞である事実は隠したいというのが当事者たちの本音だろう。

 このように、本来ならば隠しておきたい「童貞である」ということを赤裸々に押し出し、企画にしてしまったマンガがある。それが『僕に彼女が出来るまで』(佐藤ダイン/集英社)だ。

 作者の佐藤ダインさんは、現在アシスタントとして生活しているマンガ家志望の31歳。26歳の時にサラリーマンを辞め、マンガ家を志した。その後、小さな賞を受賞し、2013年には商業誌デビューを果たす。しかし、芽吹いたと思われたマンガ家への道が大きく開花することもなく、今日に至るまで編集さんからダメ出しされる日々が続いた。そして、ある日打ち合わせの場で「もっと自分をさらけ出した方がいいですよ」と言われたことを機に、本作を描くことを決意したという。

advertisement

 帯で「包み隠さないリアルタイム黒歴史!」「彼女が出来たら連載即打ち切り!」と謳われている通り、本作でのネタはすべて佐藤さんが体験したものをベースにしている。31歳の童貞男子が、彼女を作るために恋活に励む様子が、あけっぴろげに描かれているのだ。

 佐藤さん自身が認めるように、「恋」は彼にとって最大のコンプレックス。31年間、彼女を作る努力を怠ってきた結果、もはや異性との向き合い方がわからないのである。だからこそ、佐藤さんは些細なことで感激してしまう。街コンで出会った女の子とLINEの交換ができた時、デートの約束を取り付けた時、彼はこのうえない喜びに包まれるのだ。

 その様子を目にした読者は、きっと「恋愛のドキドキ感」や「忘れてしまったときめき」を思い出すのではないだろうか? 初めて好きな人と会話した瞬間や、デートを前にしての眠れない夜、別れ際のさみしさ……。これらは大人になると忘れてしまいがちなことだ。本作はそういった純粋な気持ちを呼び起こしてくれる、上質なラブコメといえるだろう。

 本作を読んでいて、『電車男』を思い出してしまった。2ちゃんねるの掲示板で、モテない電車男を応援したスレ住人たち。本作の読者の立ち位置は、まさにそのスレ住人だ(直接アドバイスはできないけれど)。果たして、佐藤さんに彼女はできるのだろうか。お気に入りのマンガが打ち切られてしまうのは悲しいことだけれど、誤解を恐れずにいえば、こんなにも打ち切りが楽しみな作品は初めてである。……でも、なるべく長く続けてね。

文=五十嵐 大