みなとみらい線「折り返し不正乗車」はどうすれば解決するか?

社会

公開日:2017/5/30


 横浜からみなとみらい、馬車道などを経由して元町・中華街に至る横浜高速鉄道みなとみらい線が5月11日、ちょっと見慣れない告知を出した。

 タイトルは「不正乗車防止運動の実施について」。横浜などから渋谷方面に向かう利用者が、みなとみらい線の乗車券を持たずに終点の元町・中華街まで行き、そこで始発となる電車に座って渋谷方面に行くという不正行為が後を絶たず、他の利用者からの情報も多数寄せられているというのだ。

 みなとみらい線ではこうした行為に対し、車内放送やポスターなどで正しい乗車をお願いしてきたそうだが、効果が得られないことから、乗車券を持たない折り返し乗車防止運動を実施し、悪質な不正乗車については正当な運賃に加え割増運賃を徴収する方針にしたという。具体的には5月17日から19日までの朝7時から8時30分まで、同社社員や警備員による声掛け、ポスター掲示、車内放送強化などを実施したそうだ。

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 この運動が終わった翌日の20日、筆者は親兄弟とみなとみらいへ出かけた。みなとみらい駅で降りると、不正乗車防止と書かれたポスターが掲示されていた。運動についてはその前から知っていたので、展開していることが確認できたというわけだ。

 座りたい。その気持ちはよく分かる。筆者の妻も、自宅の最寄り駅の隣から始発電車が多く出るので、次の駅で一度降り、始発列車の列に並んで座って通勤している。でもこの場合は、乗っている距離は変わらないし、その区間の定期券も持っているから違法ではない。しかしみなとみらい線のパターンは、同線の乗車券を持たずに横浜~元町・中華街間を往復しているわけで、無賃乗車だ。おまけに泥酔などによる乗り過ごしとは違い(これも厳密に言えば無賃乗車だが)、故意にタダ乗りしている。

 鉄道の運賃は基本的に距離によって決まっている。たとえば横浜から元町・中華街まで行き、そこで電車を降りず折り返して横浜へ向かう場合は、往復分の運賃を支払わなければいけない。しかし実際は、一部の利用者がみなとみらい線には1円も支払わずに乗車している。みなとみらい線が怒るのも無理はないだろう。

 前に書いたとおり、みなとみらい線はこうした不正行為に対して、社員や警備員による声がけやポスター、社内放送強化などを行っているという。たしかに元町・中華街駅のホームで車両を目視すれば、ある程度の摘発はできるだろう。でも最大で10両編成の電車を常時チェックするとなると、相応の人材を配置しなければならず、人件費が問題になる。

 実は終着駅であってもこうした問題が起こり得ない駅もある。たとえば東京メトロ銀座線の渋谷駅は、乗客を降ろした列車は必ず一度車庫に入り、その後浅草方面のホームに入ってくる。ただ元町・中華街駅は地下駅であり、新規にトンネルを掘って車庫を作るとなれば、やはり膨大な費用が必要となる。

 みなとみらい線には今年から、直通運転している西武鉄道が導入した座席指定電車S-TRAINが走りはじめている。S-TRAINは列車の用途によって、座席の向きを通勤電車と同じ横向きに座るロングシートにしたり、特急電車のように前向きに座るクロスシートにしたりできる。後者の場合は座席指定料金を取って運行している。

 みなとみらい線には西武のほか東急電鉄や東京メトロ、東武鉄道の車両も乗り入れる。しかしみなとみらい線が不正乗車を特に問題視している平日朝のラッシュ時は、全社の車両が総動員しているはず。東武も同種の車両を持ってはいるけれど、すべてをS-TRAINと同様のシートにすることもまた難しい。

 個人的にはICカード乗車券の機能を拡張する形で問題解決が図れないものかと思っている。GPSと連携させれば無賃乗車は一目瞭然となるはずだ。またJR東日本埼京線の列車などに設置されている痴漢防止用カメラを活用すれば、元町・中華街駅でのチェックが容易になるだろう。

 本来なら利用者のマナー向上を望みたいところだが、それが叶えられない以上、監視と刑罰で正しい方向に導いていくしかないのかもしれない。

文=citrus モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト 森口将之