向井理×斎藤工W主演『アキラとあきら』発売&ドラマ化記念 池井戸潤インタビュー

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2017/6/6

誰の人生にも、今に辿り着くまでの道のりがある――
「半沢直樹シリーズ」など、数々の銀行小説を世に送り出した作家・池井戸潤さんの新作は、銀行員版「王子と乞食」? 対照的な宿命を背負ったふたりの青年の試練と成長を描いた『アキラとあきら』の魅力を、余すところなくお届けします!

〈幼いころの君は、どんな音を聴いていた?/幼いころの君は、どんな匂いを嗅いでいた?〉夢、挫折、それでも汚れない理想を抱いて成長し、出会ったふたりの青年。やがて彼らに、厳しい試練の時が──。銀行という“社会の縮図”を舞台に宿命と宿命がぶつかり合う、ドラマチックな青春ストーリー。

いけいど・じゅん●1963年岐阜県生まれ。98年、『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、『下町ロケット』で直木賞をそれぞれ受賞。作品の映像化も数多く、近作の『陸王』は10月よりTBS系列でドラマ化、ほかに『空飛ぶタイヤ』が2018年に劇場公開予定。

銀行小説の集大成──の、はずだった?

 人はなぜ生きるのか。何に情熱を傾け、どんな夢を叶えるのか。社会の中で戦い、苦悩し、自らの道を見出す人の姿を、その人の職業を軸に描き出す─それが作家・池井戸潤さんである。
 魅力的なキャラクターに、誰もが心躍り、勇気づけられる物語を生み出した、19年の作家生活。その中に埋もれていた幻の一作が、鮮やかに蘇った。新刊『アキラとあきら』は、倒産した工場の息子と名門企業の御曹司という対照的な生い立ちのふたりの青年が、友情を育て、やがて大きな試練にともに立ち向かう物語。彼らの職業は、池井戸作品といえばこれを抜きにしては語れない─そう、銀行員である。

「雑誌での連載が始まったのは2006年ですが、もともとは“銀行ものは、これで最後にしよう”と思って取り組んだ作品でした。デビュー作を〈銀行ミステリーの誕生〉と評されて以来、長く銀行が舞台の小説を書いてきたんですが、もうそろそろ看板を下ろしてもいいんじゃないかと……ある人物が子ども時代を経て銀行員になるまでを含めた、銀行小説の集大成を書こうとした。ところが、出来がいまひとつ気に食わない。それにその後、ドラマ『半沢直樹』や『花咲舞が黙ってない』が注目を集めることになり、銀行ものはこれで終わり、というわけにはいかなくなってしまった(笑)。それで、さてどうしたものかな?と」

 それから10年。お蔵入りになっていた作品にスポットが当たったのもまた、映像化が契機だった。『空飛ぶタイヤ』『下町ロケット』(2011年度版)『株価暴落』と、これまで3作の池井戸作品の映像化を手がけてきたWOWOW「連続ドラマW」の製作陣が、池井戸さん曰く「半分、ミイラになりかかっていた」一作を見出したのだ。

「プロデューサーの青木泰憲さんが『何度も胸が熱くなった』と、作品を評してくださった。ならば、あらためて世に出す意味もあるんじゃないかと、その場でドラマ化を許諾して、僕は僕で懸案だった、原作の改稿に取りかかりました」

泣き、笑い、少年は大人になる。本格青春小説は、迫真の職業小説へ

 もとは1500枚あった大作の後半700枚を削り、その後も集中的に推敲を重ね、最終的に1000枚近くの長編小説に仕上がった『アキラとあきら』。同じ名を持つふたりの主人公、山崎瑛と階堂彬は、かたや倒産した町工場の息子、かたや名門企業の創業家3代目。運命が変転する中、少年たちがさまざまな人との出会いと別れを重ね、学び、恋をし、成長していく過程は、ザ・青春小説という趣。池井戸作品には珍しいスタイルといえる。

「銀行員はサラリーマンですから、もちろんいろいろな人がいる。『王子と乞食』じゃないですが、今回はそういう対比で書いてみたら面白いんじゃないかと考えました。まあ、最初から『銀行員になりたい』と思う子どもは、そんなにはいないと思いますが(笑)。子どもを書いた経験は、これまで長編の一部くらいでしたが、やってみたらけっこう楽しんで書けた。手の上に載っている感覚はありましたね」

 困難を克服し、たくましさと知恵を身につけていく瑛。環境に磨かれた天与の才を発揮する彬。よくも悪くも金と富に翻弄されながら成長したふたりは、それぞれの思いから銀行員という職業を選ぶ。子どもの目から見た家業の重みや、倒産の一部始終、再建、買収といった企業活動のからくりなど、生き生きと描かれるビジネスシーンは池井戸作品の真骨頂。そして、金を社会に循環させより豊かなものを生み出す銀行員の仕事について語る場面には、やはり集大成らしい熱がこもっている。

「〈バンカーが貸す金は輝いていなければならない〉というセリフが出てきますが、本物の銀行員は……言わないだろうな(笑)。まあ、理想はそうであってほしいなという部分です。銀行がなぜ融資をするのか、その部分をわかってもらうのはすごく難しい。なぜなら、その考え方が非常に特殊だからです。一般の人は、どのくらいの規模の企業ならいくらまでと決まっていると思うでしょうが、実際には何も決まっていない。基本的には、その都度その都度の判断なんです。たとえば、資本金1000万円の会社に100億円融資するなんてありえないと感じるかもしれませんが、もしその会社が、山中伸弥教授(京都大学)が社長を務めるIPS細胞のベンチャー企業だったら? 融資するかもしれません。出さなかったら他行が出すので、収益機会を逃すことになる。それが銀行の論理なんです」

 ちなみに、作品の中に出てくるビジネスマンでもっとも優れているのは、彬の父である階堂一磨だというのが、作者である池井戸さんの評。

「知恵があり、きちんと考えていて、正しい判断ができる。経営を背負う社長には、やはり相当の資質が必要だと思います。それと後半、彬が傾きかけた会社を継いでから、瑛とともに家業を救うために打つ策は、実にグッドアイデアですね。誰が考えついたのかは知りませんが(笑)。現実に実現させるのは難しいかもしれないけれど、なかなかの策だと思います」

テーマは、読む人それぞれの心の中に残ればいい

 家業という宿命の重圧に対峙する彬。持てる能力を注ぎ込み、それを支援する瑛。ときにぶつかりながらも、互いを認め合い、それぞれの宿命を乗り越えていく青年たちの姿は感動的だが、池井戸さんは「決してそれをテーマに小説を書いたわけではない」と言う。

「そもそも、僕の小説にはテーマはないんです。あるのはシチュエーションと登場人物だけ。だって今、世の中に存在している人で『自分はこういうテーマで生きている』なんて言う人はいないでしょう? 小説も同じです。それに、テーマを決めるとどうしても作家の手が入って、小説が固く小さくなってしまう。だから、瑛と彬という子どもがいて、彼らを取り巻く人がいて、そういう人たちをきちんと、丁寧に書いていく。生きている彼らが何をして、どうなっていくのかを見つめればいい。そうすれば読者は、きっと自分なりの感想を抱くでしょうから」

 テーマは、読み手それぞれの中にある。その意味で、『アキラとあきら』のテーマは“未完成”といえるかもしれない。読者それぞれの心の中で完成する、青く瑞々しい作品である。

(左)階堂 彬 かいどう・あきら
産業中央銀行本店勤務。海運会社・東海郵船の創業者一族に生まれたエリート青年。のちに事業を継ぎ、山崎瑛と難局に立ち向かう。
(右)山崎 瑛 やまざき・あきら
産業中央銀行八重洲通り支店勤務。父の工場が幼少時に倒産した経験から、銀行員になることを決意。同期の階堂彬に運命的な絆を感じる。

イラスト/加藤木麻莉

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