『のだめ』の二ノ宮知子も推薦! ピアノ王子とダメ天才少女が奏でる、熱い音楽バトルと恋の旋律『未完成ピアニスト』

マンガ

公開日:2017/8/4

『未完成ピアニスト』(筒井美雪/白泉社)

 「やっぱり音楽っていいな! わたしもまた描きたくなる」と、『のだめカンタービレ』の二ノ宮知子も推薦する『未完成ピアニスト』(筒井美雪/白泉社)。技術的には超一流、なのに極度のあがり症で実力を発揮できない天才ピアニスト・二葉と、音楽エリートの一家に生まれた美少年、通称「ピアノの皇帝」の王輝。「ピアノ王子とダメ天才少女。千秋とのだめの後輩ね!」と二ノ宮氏も心躍らせる2人を軸に描いた音楽マンガだ。

 自分の実力を人はどう思うだろう。失敗したらどうしよう。そんな恐怖心が双葉を人前で緊張状態に追い込み、呼吸困難や貧血をもよおさせる。誰もいない場所でならのびのびピアノを弾けるのに、聴衆が一人でもいると、指がまるで動かない。ピアニストを志す者には致命的な弱点だ。そんな彼女に、王輝は言う。「自意識過剰」「うぬぼれだよ」「自分が気にする程 周りは自分の事気にしてないから」と。

 これ、わりと多くの人が陥りがちな状況なんじゃないだろうか。指摘された二葉は「えっ、最下位なのに私うぬぼれてたの……!?」と動揺するが、べつに、自分って天才!なんて思っているわけじゃなくても、めざす理想、こうあるべきと夢見る姿が完璧すぎて、そこにたどりつけない自分に落ち込み、足りない自分を披露するのが怖くて緊張してしまう。つまり心のどこかで「自分はできるはず」と思っているのだ。実際二葉は「いつかフジ子・ヘミングみたいに」と高すぎる理想を口にしている。だけど人間、一足飛びに夢は叶えられない。まずは自分に今できることを、ひとつずつ重ねていくしかないのだ。

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 そんな二葉の才能を、埋もれさせないようスパルタに教育していくのが、いちはやく彼女のピアノが奏でる美しさに気づいた王輝。変わりたいと強く願う二葉は必死にその指導に食らいつき、自分の弱さに向き合いながら少しずつ才能を本当の意味で開花させていく……のだが、その過程で彼女は気づく。完全無欠に見える王輝も、人知れず努力を積み重ね続けていることを。親の七光りと彼をくさす周囲の色眼鏡をたたきわるために、いつだって、完璧であるための意地を涼しい顔で張り続けているのだと。己のことでいっぱいいっぱいの自分とは違い、王輝の音楽は誰かに届けるためにある。だから素晴らしいのだと気づいた彼女は、さらなる進化を遂げていく。

 デビュー作『少女漫画のはじめかた』は、オタク喪女の主人公がイケメンリア充男子に見初められたことをきっかけに、自意識過剰を脱ぎ捨て、他人を受け入れ、自分を肯定していく物語だった。本作の主人公・二葉もまた自意識まみれで自分を肯定できずにいる少女だが、前作と違うのはそこに音楽の要素が加わっていること。

 旋律を心象風景にみたて、ときにライバルとの白熱する演奏バトルをまじえながら描写される紙面からは、聴こえないはずの音楽が確かに聴こえてくる。人は誰かと関わることで、自分と向き合い、成長していくことができるのだと、内面の成長は才能の開花につながっていくのだということを、読者に感じさせてくれる。少女の成長と音楽の躍動感、そして才能を通じて惹かれあう2人の恋愛。どこまで本作が羽ばたいていくのか、楽しみでならない作品だ。

文=立花もも