編集者&マンガ家志望は必読! 鳥嶋和彦、三浦建太郎が『DRAGON BALL』『ベルセルク』のウラ話満載で語る「才能あるマンガ家」「面白いマンガ」の作り方

マンガ

公開日:2017/10/4

 9月17日、白泉社の5つのマンガ誌(『花とゆめ』『別冊花とゆめ』『LaLa』『メロディ』『ヤングアニマル』)による「白泉社即日デビューまんが賞」が東京・御茶ノ水で開催された。

 「白泉社即日デビューまんが賞」は、持ち込まれた全原稿を即日のうちに批評&審査して、「賞金」が対象受賞者に「希望雑誌での連載デビュー」が与えられる異色のマンガ大賞。当日は午前中から多数の参加者がエントリーし、持ち込んだ原稿の審査が行われた。

 また、当日は同じ会場で3本のスペシャル講演も実施。白泉社社長の鳥嶋和彦氏、『ベルセルク』の三浦建太郎氏、そして『赤髪の白雪姫』のあきづき空太氏&『トリピタカ・トリニーク』の鈴木ジュリエッタ氏がユニークな視点でマンガ制作にまつわるアドバイスを伝授。本記事ではそのうち、鳥嶋氏と三浦氏の講演をレポートしたい。

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■テーマ(1)「漫画家の育成発見 鳥山明の作り方」鳥嶋和彦氏

 最初の講演に登場したのは白泉社の社長・鳥嶋和彦氏。「私は口が上手いので、皆さんはそこそこ騙されて帰ってください」などと冗談めかしつつ語り始めたのは、マンガ家をどのように見出して育てるのか、編集者視点による体験談だ。

 鳥嶋氏と言えば、『週刊少年ジャンプ』を日本一のマンガ誌へと躍進させた立役者の一人。鳥山明氏や桂正和氏といった人気マンガ家を見つけ、育て上げた敏腕編集者として知られている。

 鳥山氏との出会いは同氏がまだ新人だった時のこと。ヤングジャンプ賞という新人マンガ賞の選考にあたっていた鳥嶋氏は、『スター・ウォーズ』のパロディで最終選考まで残っていた鳥山氏の原稿を見て、「原稿がきれい(描くのに迷いがない)」「マンガの吹き出しに書いている日本語が分かりやすい(マンガ家の地頭が良い)」ことから担当を志願したという。

 実は集英社に入るまで、鳥嶋氏はマンガを読んだことがなかったそうだ。そこで、ちばてつや氏の『おれは鉄兵』など、様々なマンガを片っ端から読んで研究したことで、「マンガの基本はコマ割りの分かりやすさにある」という法則に気付いたと語る。

 講演では、鳥嶋氏が実際に『DRAGON BALL』を例に挙げつつ丁寧にその法則を解説した。

■構成は見開きごとに考える

 鳥嶋氏は、「コマ割りには3つのアングルがあります。これが見開きに過不足なく入っていないと、マンガは分かりにくくなる」と語り、天下一武道会の孫悟空vs.ピッコロの戦闘シーンを参考に説明。1コマ目はロングカットで全体の状況、2コマ目はミドルカットでキャラクターの動き、3コマ目でその表情を見せるなど、複数のパターンを有機的に組み合わせることで、子供でも直感的にストーリーを分かりやすく見せることができると語る。

■キャラクターがすべて

 また鳥嶋氏は、『DRAGON BALL』は鳥山氏の奥様が言った「うちの旦那は変わっている。ジャッキー・チェンのカンフー映画を観ながらマンガを描いている」という一言から生まれたいう意外な誕生秘話を明かした。2つ目の法則は「キャラクター」の重要性についてだ。

 今でこそ国民的コミックで知らぬ者はいない『DRAGON BALL』だが、連載当初はキャラクターに特徴がなかったことから人気が伸び悩んだという。そこで鳥嶋氏は、悟空と亀仙人を除いてキャラクターを全部捨て、悟空の「強くなりたい」というテーマに沿って物語を組み立てる方向へシフトチェンジ。天下一武道会などのバトルを中心にしたストーリーへと転換したところ人気は急上昇し、当時ジャンプの頂点にいた『北斗の拳』を抜いてトップに立ったという。

 「ディズニーランドのジャングルクルーズでたとえるなら、皆さんが乗ってるボートこそが主人公キャラクターです。キャラクターは読者の想いを乗せて動く分身。だから、読者が主人公を自分のことのように考えて好きになれないと物語にのめり込めないんです」と話し、キャラクターがストーリー以上に大切であることを説いた。

■作家の描きたいものと描けるものは違う

 コマ割り、キャラクターに続く3つ目の法則について、鳥嶋氏は「作家は自分の中にないものは描けない」と断言する。「小さい頃から見て感じていた感性の集大成から、上澄みをすくった価値観やキャラクターこそ、マンガ家の描けるもの。つまりオリジナリティです。それが描ける人がヒットします」と語る。実際に『Dr.スランプ』では、則巻せんべいを描きたかった鳥山氏に対して、1話でいなくなる予定のアラレを主人公に据えようと提案して大反対にあったという。

 「僕は編集者だから、それでは売れないことを知っている。作家と編集の間には読者がいて、読者が作品をどう受け取るか、どう感じるか、これがすべてです。マンガは読んでもらえなかったら意味がありません。編集はマンガ家と読者をどうつなげるかが役割なんです」と話し、編集者はマンガ家にどうやって「何が描けるか」を気付かせることが大事だと熱弁。マンガ家も編集者も読者を常に意識しなくてはいけない。その上で、お互いの話に耳を傾けながら仕事をすることの重要性を説いて講演を締めくくった。

■テーマ(2)「何から手をつけていいか分からない人に向けての道標」三浦建太郎

 続いて担当編集者と共にステージに登壇したのは、『ベルセルク』の三浦建太郎氏。

 実は初めての講演になるという三浦氏。「テンパっちゃったら助けていただけると(笑)」と前置きしながら、「持ち込みするくらいの頃に聞いておくと、役に立つんじゃないかな」という今回のテーマについて、アイデア、キャラクター、ストーリーの3つの視点で解説していく。

■アイデア

 三浦氏は、アイデアの考え方は主に「組み合わせ型」「突き詰め型」「ひらめき型」「更新・リニューアル型」の4つに分類できると考える。

 「組み合わせ型」は、2つ以上のアイデアを組み合わせたもの。ベーシック+意外性という方法が主流で、近年の例として「戦車+部活」の『ガールズ&パンツァー』が挙げられた。また、「組み合わせ型」には「ルックスが良い」「インパクトが強い」「メディアでの商品展開ができる」などのメリットがあるものの「組み合わせたテーマの経験や知識が必要で、マニアックになりがち」と指摘した。

 「突き詰め型」は1つのアイデアのディテールを突き詰めるという考え方。『ボールルームへようこそ』は社交ダンス、『ソードアート・オンライン』はオンラインゲームなどはそのひとつだ。題材との出会いの場になり、同じ経験をしている人の共感度が高いメリットがある。だが一方で、「経験や知識はあってもマンガの文脈は不足しがちな人が多く、より勉強する必要がある」と語った。

 「ひらめき型」は、『北斗の拳』の北斗神拳、『るろうに剣心』の逆刃刀などアイデアをひらめいたら勝ちという考え方。三浦氏によれば、『ベルセルク』の大剣もこのジャンルに属するという。また、「新しいパイオニアになれる。大ヒットになれる可能性があるんですが、スベりやすくて理解されにくい。あとネタが出尽くしているんですよね(笑)」と苦笑いを浮かべた。

 「更新・リニューアル型」は、過去にあったモチーフを、本質は変えずに内容を時代に合わせてリニューアルしたもの。分かりやすい例として、過去に世相に合わせて何度も作品が作られてきた『バットマン』を挙げた。また、『新世紀エヴァンゲリオン』は『ウルトラマン』を「突き詰め型」「ひらめき型」「更新・リニューアル型」で作った特殊なパターンであると分析。また、「少年誌では『僕のヒーローアカデミア』、これらを学園ものに落とし込むケースが多いと思います」と語った。

■キャラクター

 『ベルセルク』のモズグスは「硬い」、ワイアルドは「乱暴」というキーワードから生まれたなど、三浦氏はキャラクターを立てるために「極端にする」「特徴を強調する」「シンプルにして多面性をなくす」ことが必要だと話す。ただ、現在はこれらのキーワードも細分化されてジャンルが定着しているので、複数のキーワードを組み合わる必要性も指摘。さらに、キャラクターは外見から作った方が良いが、青年向けの場合は性格や育った環境から逆算して考えて深みを持たせた方が良いとアドバイスした。

 また、キャラクターを配置する時は、「主人公を中心に配置する」ことを意識した方が良いという。『ベルセルク』の場合、グリフィスは「寂しさ、闘志」、パックは「息抜き、笑い、シリアスブレイカー」、キャスカは「罪悪感、焦燥感、哀れさ」、イシドロは「頼もしい存在」、シールケは「憧れや優しさ」、ファルネーゼは「怪物、恐怖、カリスマ」、セルピコは「ワイルドさ」など、ガッツに対して各キャラクターがどのような感情を持っているか、考えながら相関関係を作ることで、主人公に多面性をもたらせたことを明かした。

■共感

 続いて三浦氏は、キャラクターはマンガの彩りにはなってもストーリーの推進力にはならないと語り、これはやった方が良いこととして、「自分や身の回りの人、あるいは人間関係を自分の作品に投影した方が良い」とレクチャー。「これは実体験なんですけど、鷹の団の話って、僕の高校時代の友人関係が主にベースになっているんですね。あれを入れたことで急にファンをガシッとつかめた」と自身が『ベルセルク』で描いた黄金時代篇を回想しながら、特に新人は全部を駆使してデビューを勝ち取らなくてはいけないため、ぜひ使ってほしいとアドバイスした。

■ストーリー

 最後に「これが一番実用性が高いと思います」というストーリーだが、これには金型があり、優秀なものほど再利用されていると三浦氏は話す。

 例えば「キャプテン型」は、「弱小あるいは廃部寸前の部に、その道のエキスパートで何らかのトラウマを抱えた主人公が入部して、仲間と切磋琢磨してその部を救うだけでなく、本人のトラウマも克服していく」といったパターン。近年では『ガールズ&パンツァー』などが同じ金型に当てはまるという。

 他にも「正体不明の天才がセンセーショナルに世の中に出現する。その天才は意外な人物で、本人の自覚もないまま、とんでもない能力を日常生活の習慣で身につけている」という「YAWARA!型」、「かつて戦いの中で怪物と恐れられていた主人公が、平和になった世界でまっとうに生きていこうとするが、当時の敵や仲間が現れて再び元の世界に引き戻そうとする」という「シェーン型」を挙げた。

 さらに、「埋もれている他にも金型もいっぱいあります」という三浦氏は、「金型には著作権がありません。なので良い金型をたくさん知っておくと役立つ」と、色々な作品から金型を探すのもマンガ作りのヒントになると教えた。

 三浦氏は締めくくりとして、「新人時代は新しいとか奇抜であることが面白いと思いがちですが、それがイコールになるとは限りません。こういった金型はマンネリだと思われるかもしれませんが、時代を超えて受け継がれてきた信頼性がある。良いキャラクターやアイデアができたら、そこまで新鮮さにこだわらなくても、普通に楽しめるストーリー作りにしていいと思う。特に最近は、悲しいですけどキャラクターやアイデアほど、ストーリーに重きが置かれていないので」と実用的なアドバイスを次々と伝授。

 ただ一方で、「マンガ家には、経験や言いたいことがあってマンガ家になる人、特に描きたいものはないけどマンガや画を描くのが好きな人に分かれると思います。自分がどっちに向いているか見誤らないようにしないと、時間の無駄が発生します」と笑いを誘い、自分に合った方法を探すことを勧めることで講演を終えた。

取材・文=小松良介

■白泉社即日デビューまんが賞 結果

・大賞
千葉もりこ「サーチライト」
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・花とゆめ賞
たかみね「クジラの歌」

・別冊花とゆめ賞
さくらえび「マンガ家さんの初恋事情」

・LaLa賞
大宙晃(おおたかあきら)「星の旅人」

・メロディ賞
真路あゆこ(まじあゆこ)「私のやさしい天使様」

・ヤングアニマルアニマル賞
ナオ「メモ・リアル〇」

・社長特別賞
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