BLがあることで、人生の幸福度が増す人たちに向けて

特集番外編1

公開日:2020/6/8

BLがあることで、人生の幸福度が増す人たちに向けて

「ボーイズラブが動き出す」『ダ・ヴィンチ』2020年7月号特集番外編

 約1年半ぶりになる『ダ・ヴィンチ』BL(ボーイズラブ)企画は、今年相次いでいる大型映像化に注目した大特集(34ページ)をお送りすることになりました。

 BLジャンルは、日本だけでなく、世界でも大きな進化を続けています。『ダ・ヴィンチ』では、その魅力のほんの一端でもご紹介するべく、折に触れてBLの世界をさまざまな角度から特集し、ご好評をいただいております。これもひとえに、作品を作り上げる先生方、出版に関わるみなさま、楽しんでくださっている読者のみなさまのおかげです。本当にありがとうございます。

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 今回の「ボーイズラブが動き出す」特集は、BL界が誇る笠井あゆみ先生の描き下ろし美麗見開きイラストで幕開けです。まさにいまを映す、そして、この特集にもぴったりな、自宅でくつろぎ、映像を楽しむ二人の日常のワンシーン。

 特集のメインは、大型映像化作品の原作者、『海辺のエトランゼ』の紀伊カンナ先生、『ギヴン』のキヅナツキ先生、『Life 線上の僕ら』の常倉三矢先生、『性の劇薬』の水田ゆき先生、『囀る鳥は羽ばたかない』のヨネダコウ先生(ご登場順)より、インタビューや描き下ろしイラスト(紀伊カンナ先生、常倉三矢先生、水田ゆき先生)のご協力をいただきました。映像化や作品についての貴重なお話、そして作品の世界観に没頭できるA3横サイズの描き下ろしイラストの迫力を、ぜひ、ご堪能くださいませ。

 一般文芸作品『流浪の月』で今年の本屋大賞を受賞され、BL作家としても最前線でご活躍の凪良ゆう先生のインタビューのテーマは「BLとの関係」。さらに、BL誌掲載ではありませんがBLジャンルでオールタイム・ベストに数えられる水城せとな先生の名作を、大倉忠義さんと成田凌さんの共演で行定勲監督が実写化して話題の映画『窮鼠はチーズの夢を見る』の紹介、社会学者の堀あきこ先生&守如子先生による「学問としてのBL」解説、オノユウリ先生が「おすすめの映像BL」の感想を綴るコミックエッセイなども、読み応え抜群です。

 大ブレイク中の「タイBL」も登場する「BL最新キーワード」、厳選24作を紹介する「注目BL作品ガイド」など、ジャンル全体の情報をチェックできるページも充実。白泉社の人気作品『吸血鬼と愉快な仲間たち』『兎オトコ虎オトコ』の紹介もあります。

 2020年7月号『ダ・ヴィンチ』第一特集「映像化ラッシュに乗り遅れるな! ボーイズラブが動き出す」特集。ぜひ、ご一読ください。どうぞよろしくお願いいたします。

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 さて、ここから、編集部からご依頼いただいたので、一般誌である『ダ・ヴィンチ』と「ボーイズラブ」の歴史を、ずっと関わらせていただいている立場から、少し振り返らせていただければと思います。

『ダ・ヴィンチ』初のBL特集は、いまを遡ること14年前、「この作品に「芥川賞」を獲らせたい!」(8P/2006年9月号)でした。

 三浦しをん先生にご協力いただき、特集のメイン企画「BL芥川賞選考会」の取材を終えた直後に、三浦先生が直木賞を受賞されるという奇跡的な偶然があり、特集のタイトルが一気にリアリティを持ったことは忘れられません。

 このとき、三浦先生と有識者のみなさまによってBL芥川賞に選出されたのが、木原音瀬先生の傑作小説『箱の中』『檻の外』で、この作品は2012年、『箱の中』としてまとめられ、講談社文庫より文庫化されました。

 また、14年前は、BLジャンルで圧倒的な人気を誇っている先生でも『ダ・ヴィンチ』が一般誌だからという理由で、作品の掲載が許可されなかったり、掲載のOKをいただいても「一般誌なので緊張します」というお言葉をいただいたり、いまよりもずっと、作品を作っていらっしゃる側も、読者も、一般とBLの間にあるボーダーラインを感じていたと思います(それが、特集を企画した一番の理由でもありました)。

 BLは主に女性作家が男性同士の恋愛を描く、というセンシティブなジャンルなので、ボーダーがあってこそ輝く作品もたくさんあります。ボーダーで内側と外側を守ることは常に必要だと思います。けれど、センシティブなファンタジーだからこそ、必要な人に届いたとき、その作品は、誰かの人生を救う物語になりえると思うのです。当時、「本の世界」の中で、「BL」というだけで手に取られない、けれど、ジャンルを越えて読まれるべき作品はたくさんある、そんな思いで企画したのが「このBL作品に芥川賞を!」でした。

 それから14年。思いはずっと同じです。BLの世界はさらに広がり、すばらしい作品が生まれ続けています。シリアスからアホエロまで、笑ったり泣いたり萌えたり癒やされたり感動したり。理由なんてなくても、ただ好きだというだけで、それはすばらしい作品との出会いです。自分に響く作品との出会いは、人生を豊かにします。

 2020年、今回の特集は、「本の世界」から「映像の世界」を舞台に、BLを原作とした作品が同時多発的に発表されている現在を特集することになりました。

 1990年代からBL原作の映像化はありましたが、一般作のひとつとして映画館でラインナップされる作品が、実写もアニメも続々と公開される今年は、まさに「ボーイズラブが動き出す」印象の年だと思います。特集校了後も、人気作『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』のTVドラマ化が発表されるなど、まだまだ、気になる映像化が控えていそうです。マンガも小説も、すばらしい作品の宝庫ですので、これからの広がりが楽しみです。

 BLジャンルに限ったことではありませんが、すばらしい物語が、必要とされる人のところへ届く道は、どれだけあってもよいと思います。本とコミックの情報マガジン『ダ・ヴィンチ』もその入り口のひとつです。

 BLがあることで、人生の幸福度が増す人たちに向けて。
いまはまだ眠っているそのスイッチを持つ人にとって、新たな出会いになることを願って。
そして、すばらしい作品を届けてくださる作り手のみなさまへの感謝を込めて。

 2020年6月、ますます発展を続けるであろうBLの現在地を、今回もお届けできたことに、深く感謝申し上げます。ありがとうございました。

元ダ・ヴィンチ編集部、現フリー編集ライター K・H