「遊郭編」完結。原作に呼応し、進化を続けるアニメーションを考察する/TVアニメ『鬼滅の刃』

アニメ

公開日:2022/3/6

鬼滅の刃
©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

※この記事は最新話の内容を含みます。ご了承の上お読みください。

 はるか高みにいた相手に刃を突き立てる。傷ついても倒れても立ち上がる少年たち。肉が削がれようとも、胸を貫かれようとも、骨を砕かれようとも、力いっぱい刀を握り続ける。傷を負っても、身体の一部を失ってもたちまちに治ってしまう不死身の鬼を、少年たちは倒した。

 TVアニメ『鬼滅の刃』無限列車編・遊郭編が完結した。最終回となる第十一話「何度生まれ変わっても」は、45分の拡大枠でオンエア。本編中にTVCMを挟まないというスペシャルな構成で放送された。

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 鬼の首領・鬼舞辻無惨の血を受けた上弦の鬼・妓夫太郎と堕姫の頸を切り落とした、竈門炭治郎、音柱・宇髄天元、我妻善逸、嘴平伊之助の4人。消滅していく妓夫太郎と堕姫はお互いに相手をけなしあう。兄と妹が口汚く言い争う姿を見た炭治郎はふたりをそっと止める。妓夫太郎は自らの過去をかえりみて、静かに消えていく。戦は終わった。音柱・宇髄天元は一線から退くことを決意し、後進に未来を委ねることを語る――。

 この第十一話をもって無限列車編から続く遊郭編は完結したことになる。

 先に放送されたTVアニメ無限列車編は、2020年10月に公開された劇場版を再構成したもの。アニメオリジナルの第一話と新たにLiSAが歌うオープニングとエンディング、そして新規カットを追加して、TVアニメとして全7話で放送された。

 劇場版の内容はそのままに、炎柱・煉獄杏寿郎の背景などがより深く描かれ、炭治郎たちが失ったものの大きさをさらに強調することになった。『鬼滅の刃』全体のストーリーにおいてもターニングポイントになったと言える、重要なストーリーだった。

 今回TVアニメとして無限列車編があらためて構成されたことで、過去にTVアニメで放送されていた竈門炭治郎・立志編(第1シーズン)の続きとして、同じ流れに乗ることになったのだ。

 そして続くTVアニメ遊郭編は全11話で放送。無限列車編を大きく上回る戦闘シーンを描き、TVアニメとしては破格のアクションアニメーションで描写。炭治郎たちの成長と鬼の打倒へと一歩進む姿を語ったのである。

 無限列車編と遊郭編は、原作コミックスの第7巻第54話から第11巻第97話にあたるエピソード。「週刊少年ジャンプ」で『鬼滅の刃』の連載が始まって、ちょうど1年目を迎えたころに描かれた物語である。「週刊少年ジャンプ」は読者アンケートによる人気を掲載順などに反映することで知られているが、この時期の『鬼滅の刃』は連載が50回となり、読者の人気もまずまず、当時の連載作品の中では中堅どころにあたる作品だった。無限列車編が始まる直前の第53話(2017年15号/2017年3月13日発売)ではセンターカラー(雑誌の中盤に挟まれるカラーページ)を飾っている。無限列車編が始まると、人気は一気に上位へ。遊郭編の連載中は、同誌の巻頭カラーやセンターカラーを何度も飾り、「週刊少年ジャンプ」の顔のひとつとなる作品へとステップアップしていった。

 原作者の吾峠呼世晴の筆もノリにノッており、ギャグとシリアスの振り幅が大きく、ギャグの崩し顔も大胆になって、大ゴマで描かれた決めカットの構図も、鋭さを増している。とくに無限列車編では「なぜお前が至高の領域に踏み入れないのか教えてやろう。人間だからだ。老いるからだ。死ぬからだ」(猗窩座)、「老いることも死ぬことも、人間という儚い生き物の美しさだ」(煉獄杏寿郎)、「いつだって鬼殺隊はお前らに有利な夜の闇の中で戦ってるんだ!! 生身の人間がだ!! 傷だって簡単には塞がらない!! 失った手足が戻ることもない」(竈門炭治郎)といった名ゼリフが連発。遊郭編では「恥じるな。生きてるやつが勝ちなんだ」(宇髄天元)という、作品のテーマにも関わるような深みのあるシーンとセリフが描かれている。まさに、『鬼滅の刃』という作品においても、遊郭編は中核をなすエピソードだったといえるだろう。

 遊郭編が終わったあとの第112話が掲載された2018年27号(2018年6月4日発売)でアニメ化が発表されており、アニメ化を決定づけたエピソードでもあるのではないだろうか。

 この重要なエピソードを、どのようにアニメ化するか。

 TVアニメ竈門炭治郎 立志編で実績があるとはいえ、アニメ制作スタッフはプレッシャーも大きかったことだろう。この無限列車編と遊郭編で「変えなかったこと」と「変えたこと」のふたつに挑んでいる。

「変えなかったこと」のひとつは、スタッフの体制だ。本作はアニメーション制作会社ufotableの社内スタッフを中心に制作されている。そのスタッフの顔ぶれを見ると、同社が制作してきた作品のスタッフ陣とほぼ変わらないことがわかるだろう。『鬼滅の刃』においても、メインスタッフは竈門炭治郎 立志編から続投。緻密な日常シーンはufotable徳島(彼らは徳島にも制作スタジオを擁している)のスタッフが担当し、ポイントとなるアクションシーンでは社内のアクション演出家、アクションアニメーターが投入されるなど、層の厚いスタッフがしっかりと各話を手掛けている。また、演出のスタイルも変えていない。竈門炭治郎 立志編のときの演出と同じく、原作コミックスの独特なタッチと、コマの構図をしっかりアニメ本編で再現し、コマとコマをつなぐ間の動きを、自由なアニメーションで描いていく。そして、映像に合わせて音楽(劇伴)を作るフィルムスコアリングの手法で、情感たっぷりな音楽をつける。本作はハイクオリティな作画が注目されがちだが、音響面にもかなりの労力がかけられている。竈門炭治郎 立志編から「変わらず」に受け継いでいくこともひとつの挑戦だったのではないだろうか。

 そして、「変えたこと」。

 そのひとつは、前述した音楽面である。遊郭編ではオープニングとエンディングをAimerが担当することになった。彼女はいま、数々のドラマやアニメで主題歌を担当しているアーティストであり、ufotable作品ではTVアニメ『Fate/stay night[Unlimited Blade Works]』や劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel]』も担当していたアーティストだ。彼女が参加することにより、遊郭編には「夜の闇の空気感」と「疾走感」がもたらされた。

 また、劇伴面においても変化がみられる。竈門炭治郎 立志編では、あえて和物の楽器の使用回数を抑え、いわゆる「和の音階」のメロディも少なかった。しかし、遊郭編では三味線の音や和風の音階を使ったメインテーマを採用することで、物語を盛り上げている。音楽面においても、ひとつの変化が生まれているといってもいいかもしれない。

「変えたこと」のもうひとつは、アニメオリジナルの描写だ。TVアニメ無限列車編では一話分をまるまるアニメオリジナルの話数として制作。遊郭編においても、第一話の竈門炭治郎の鬼討伐のシーンをアニメオリジナルで描写、宇髄天元と嫁3人の墓参りシーンなどをオリジナルで描くなど、アニメオリジナルの描写が目立っていた。たとえば、遊郭編第二話の「正直者の炭治郎は嘘をつく時、普通の顔ができない」のカットはレトロな映画調の演出がなされ、わかりやすいギャグシーンとして描かれていた。

 竈門炭治郎 立志編においてもアニメオリジナルのシーンはいくつも細かく織り込まれていたが、TVアニメ無限列車編、遊郭編で、その比重は大きくなっている印象がある。原作コミックスで描かれた無限列車編の夢のシーンなど、原作者の筆が走り、自由な表現をしているパートが少しずつ増えていくことで、アニメのスタッフが表現する幅も、どんどん広がっているのだろう。

 上弦の鬼・堕姫が操る無数の帯を3DCGで描き、炭治郎たちの作画の剣戟アクションとぶつける。こういった表現は、竈門炭治郎 立志編の鬼・朱紗丸が操った毬(蹴鞠)のアクション(竈門炭治郎 立志編第八~十話)のアップデート版と言える。過去に挑んだ表現をアップデートし、新しい表現を生み出す。これぞ長期シリーズ作品を見るときの楽しみのひとつだ。

 マンガ家が連載を続けていくことで、筆が乗り、キャラクターが生き生きと描かれ、作品の勢いが増していく。長期連載作品に起こる豊穣の季節、いわば確変の時期。その充実したエピソードを、実力あるアニメーションスタッフとスタジオがさらに膨らませていく。

 遊郭編の最終話となる第十一話の最後には、次回作となる刀鍛冶の里編の制作発表が行われた。刀鍛冶の里編には、恋柱・甘露寺蜜璃と霞柱・時任無一郎が登場する。炭治郎と禰豆子にとっては、大きな試練となるエピソードだ。原作では、ギャグ描写も豊富で、シリアスなアクションシーンもすさまじい。はたしてどんなアニメになるのか。

 TVアニメ刀鍛冶の里編のオンエアのときを、一日千秋の思いで待つばかりだ。

鬼滅の刃
『鬼滅の刃』9巻(吾峠呼世晴/集英社)

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