「うつ病」はどんな病気なの? 医師が答える、病気の特徴と治療に必要なこと

健康・美容

公開日:2022/6/23

名医が答える! うつ病 治療大全
名医が答える! うつ病 治療大全』(野村総一郎:監修/講談社)

 経済協力開発機構(OECD)のメンタルヘルス(心の健康)に関する国際調査によると、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、日本国内のうつ病・うつ状態の人の割合が2倍以上に増えたことがわかったという。新型コロナが流行する前の2013年の調査では7.9%だった日本のうつ病やうつ状態の人の割合が、2020年には17.3%になったというのだから驚きだ。

 ときどき気分が落ち込むことがあるから、自分はうつ病ではないだろうか……。そんな人はもちろん、家族や職場など身近な場所にうつ病の人がいるという場合も、うつ病に対する正確な知識を身につけ、きちんと対処できるようになることが大切。

 そのために手に取ってもらいたいのが『名医が答える! うつ病 治療大全』(野村総一郎:監修/講談社)だ。日本うつ病センター副理事長で、六番町メンタルクリニック名誉院長でもある野村総一郎氏が、うつ病にまつわるさまざまな疑問に一問一答形式で答えてくれる。ここでは、その一部を紹介していきたい。

advertisement

うつ病とは、どんな病気?

 そもそもうつ病というのは、どんな病気なのだろうか? その答えを見てみよう。

「そもそも“うつ”とは、その名のとおり、気分がひどく落ち込み、憂うつになる状態を指します。抑うつともいいます。
 周囲がどんなに楽しいと感じることでも、自分はまったく楽しいと感じません。だからといって悲しいわけでも苦しいわけでも、そしてつらいわけでもありません。(中略)
 生活に支障をきたす抑うつが2週間以上続けば、うつ病と診断されます」

 社会や家庭、学校で日々の生活を送っていれば、誰でも気分が落ち込み、やる気が出ない状態になるもの。程度の違いこそあれ、誰もが陥る憂うつな気分とうつ病との違いはなんなのか? その違いについても本書はわかりやすく解説してくれる。

「『うつ』は、その名のとおり、気分がひどく落ち込み、憂うつになる心の状態で、いわば生理現象です。『うつ病』は持続性や重症度、経過などが含まれる心の病気です。中心となる症状のうつ(抑うつ)のほかに睡眠障害など身体的な症状が現れます。
 うつ(=一時的なうつ状態)とうつ病は異なります」

 本書によれば、気分が落ち込み、やる気が出ないなどの一時的なうつ状態は、日常生活にそれほど大きな支障はなく、気分転換もできるのに対し、うつ病になってしまうと、仕事も家事も勉強もできず、食事や入浴などの日常の行動もできなくなってしまうという。それも、面倒だからやらないのではなく、やらなければならないと思いながらもできないため、本人は非常に苦しい思いをし、「死んだら楽だろう」という思いすら抱いてしまうのがうつ病の特徴だというから大変だ。

 一時的なうつ状態なら、原因となる嫌なことが解消され、ほかに良いことがあると気が晴れるもの。でも、うつ病の場合、どんなに良いことがあっても落ち込みは解消されず、気晴らしすることもできないという。こんなうつ病の特徴を知ると、この病気の怖さがわかってくるのではないだろうか。

名医が答える! うつ病 治療大全 p19

うつ病になったら、どうすればいい?

 自分や家族、知人がうつ病と診断されたら、どうすれば良いのだろうか? その答えはシンプルだ。

「うつ病と診断されたら、休養をとることと、薬をのむこと。この2つの組み合わせが効果的です」
 そして、この言葉は次のように続く。
「休養をとらなければ、どんな治療法を試しても、その効果は発揮されません」

 最近はテレビをはじめとするメディアでうつ病が取り上げられることも多いが、休養をとらなければ、どんな治療法も効果がないというほど、休むことが重要だと認識している人はそれほど多くないはず。このことを知れば、うつ病と診断された人に対する、家庭や職場、学校などの周りの人々の態度は大きく変わっていくのではないだろうか。

 野村先生はいう。「患者さん本人が休養の意義を理解し、『休むことが回復への第一歩』と覚悟を決めることが大切です」。そして「『今、いちばん大事なのは休んで回復すること』『一生懸命、休めるように努力してほしい』と、本人の罪悪感や焦りを、家族や周囲の人がやわらげるようにしましょう」と。

 休養をとることがもっとも大切だとしても、やはり気になるのはうつ病の治療法だろう。それについても本書は教えてくれている。

「うつ病の治療法に関する研究は世界的にさかんで、たくさんの方法が提唱されています。もっとも一般的で、高い効果が認められているのは薬物療法で、それと並んで重視されているのが精神療法です」

 薬物療法というのは、抗うつ薬を中心にいろいろな薬を使って状態の改善を図る治療法で、精神療法というのは、患者がかかえている問題についてともに考え、ときにアドバイスをしながら、本人がもつ力を引き出していく治療法だという。そして精神療法のなかには、認知行動療法、行動療法、対人関係療法などがあることが紹介され、別項でそれぞれについても解説を加えている。

「(うつ病の)回復を早めるには、やはり治療が必要です。適切な薬物療法を受けることで、半数以上は発症から6カ月以内に大きく改善します。認知行動療法などの精神療法を併用することで、さらに高い回復率が望めます」

 うつ病と診断された人にとって、この言葉は大きな救いだが、その一方でうつ病の回復期は「一進一退をくり返すのが普通で、良くなった後の再発にも注意が必要です」とのこと。こうした点も知っておくことで、うつ病と診断された人への対処が変わっていくのではないだろうか。

名医が答える! うつ病 治療大全 p112〜113

 うつ病は自分には関係ない。そう考えている人もいるだろう。だが本書によれば、悪いことばかりでなく、良いことであってもそれをきっかけに受けるストレスによって、誰もがうつ病になる可能性があるという。そんなときになって慌てないために、また、家庭や職場でうつ病と診断された人に対して適切な対応ができるように、本書を役立ててもらいたい。

文=井上淳

あわせて読みたい