自分の大切な人を亡くしたら…。誰もが直面し経験する「喪失体験」をどう乗り越えるべきか

暮らし

更新日:2022/7/14

大切な人を亡くしたあなたに知っておいてほしい5つのこと
大切な人を亡くしたあなたに知っておいてほしい5つのこと』(井手敏郎/自由国民社)

 人はいずれ死ぬ。そして、残された人にとって、その悲しさは計り知れない。この記事を担当する筆者も、実家で一緒に暮らしていた祖母が亡くなった当時を思い出す。病院へ駆けつけたときは、すでに遅かった。天寿をまっとうし、仰向けのまま光を失った目で天井を見ていた祖母の姿を目にし、父や母と一緒に大粒の涙を流した体験は今でも鮮明に蘇ってくる。

  誰もが人生で味わう喪失体験。それに伴う「悲しみや嘆きとその反応」は「グリーフ」と呼ばれている。書籍『大切な人を亡くしたあなたに知っておいてほしい5つのこと』(自由国民社)は、喪失体験をした人を支える「グリーフケア」に力をそそぐ井手敏郎氏の著書だ。死別を経験した架空の登場人物たちと井手氏との対話形式の文章で、喪失体験をケアする集い「グリーフサロン」の様子が描かれ、読み進めながら読み手自身もケアの仕方を学んでいくことができる。


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不安解消のために役立つ「心の地図」。喪失体験の要素を「グリーフスパイラル」で知る

  登場人物の1人、高橋あいさんは半年前に夫と死別した。「夫は約1年間闘病していました。私は看護師としてたくさんの方の死を看取ってきたつもりでしたが、夫の死は今も受け止めることができず、どうしたらいいのかと思って…」と切実な思いを打ち明ける。

「喪失の悲嘆は誰にでも起こる自然な反応です。悲嘆に向き合うためにはご自身に起きている反応について理解を深めていくと安心できるようになります」と、井手氏はやさしく語りかけていく。

 喪失体験をしたとき、人は「自分はいったいどこにいるのか」「どの方向に向かって進めばいいのか」と考え、道に迷う。多くの人たちは、悲嘆というものについて十分な知識がなく、直面する課題に圧倒されてしまうのだ。

 その不安を和らげるためには、「心の地図」を持ち、喪失体験をした自分の状態を把握する必要がある。そのために知っておきたいのが「グリーフスパイラル」だ。

大切な人を亡くしたあなたに知っておいてほしい5つのこと

 グリーフスパイラルの図では「哀しみ」を取り囲むように「喪失」「混乱」「否認」「怒り・罪悪感」「抑うつ」「あきらめ」「転換」という状態が配置されている。やがて、喪失体験により込み上げた状態は「再生」していく。

「哀しみ」は、喪失体験における本質の部分として目に見えないけれど確実にそこにあるもの。「喪失」「混乱」といった周辺のものは現象として表面に現れて絶えず変わっていくもの。大切な人を亡くしたとき、本質と現象というものの2つを抱えながら生きていると考えると、少しずつ自分のことが理解できるようになるのである。

過去を振り返るワーク「ロスライン」で喪失体験を手放す

 喪失体験をすると、ほかにどんな変化が起きるのだろうか?

 参加者の1人、6年前に妻を看取った中村剛さんは「妻が亡くなった後は、気力がなくなっていました。クリニックでうつ病の診断を受けてから長く薬を服用してきました」と打ち明けた。

「実は、うつ病とグリーフは混同しやすいんです」と、井手氏は違いを説明していく。

 グリーフとうつ病を見分けるポイントはいくつかある。うつ病は「持続的な抑うつ気分」が中核症状で、幸せや喜びを期待する気持ちがなくなっていることも多い。

 一方、グリーフにも抑うつ気分はあるが、主な感情は空虚感と喪失感である。また、グリーフの場合は、つらい中でもユーモアの感覚や前向きな気持ちが持てたりもする。自己診断には気を付ける必要があるが、知識としてそれぞれの違いを知っておくのは大事なことかもしれない。

 ここで紹介したいのが、グリーフを緩和するための「ロスライン」と呼ばれるワーク。ロスラインとは「これまでの喪失体験を年表のような形で書いてみる」という手法である。「自分のこれまでの悲しみ」を列挙することで、抱えている思いを「手放す」のが目的だ。

 方法はシンプルで、紙を用意して「0歳から現在の年齢までを記入し、その年齢毎に経験した喪失体験」をまとめていく。場面ごとに「生じた気持ちと現在の影響」も書き込み、「困難な中で自分が頑張ってきた姿や、自分が繰り返しているパターン」を具体化して、「痛みの理由に気づき、自分自身を認めるきっかけ」へと変えていく。

 ただ、つらい体験を思い出すのはけっしてたやすいことではない。場面に応じて「書けない、あるいは書きたくない」といった場合にはワークそのものをパスしてもよい。安易にトラウマと向き合うのはリスクも伴うため、必要に応じて「心理職のサポート」を受けながらワークを進める選択肢もある。

 グリーフを抱えたとき、人はどのように傷を癒していくのか。本書は、読者に優しく寄り添いながら、喪失体験を乗り越えるために必要な知識や方法を教えてくれる。本稿の冒頭でも述べたが、親しい人の死は誰もが直面しうる。誰もが避けられない人生の大きな場面に向き合うときには、自分をいたわることも大切なのだろう。

文=カネコシュウヘイ

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