ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、鯨庭『言葉の獣』

今月のプラチナ本

公開日:2022/7/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『言葉の獣』(1巻)

●あらすじ●

詩に強い関心を持つ薬研は、詩を書くことを馬鹿にする風潮に憤りを感じていた。ある日、クラスメイトの東雲が言葉を「獣」の姿で見ることができる共感覚の持ち主であることを知り、彼女の導きにより「言葉の獣」が棲むという「言葉の生息地」に辿り着く。「この世でいちばん美しい言葉の獣を見つけたい」という東雲の目的をかなえるため、二人は協力し合うことに。工夫の凝らされた紙の本ならではの仕掛けにも刮目。

くじらば●実在動物と空想動物専門のマンガ家。2018年「千の夏と夢」でKADOKAWA「ハルタコミックグランプリ」を受賞。20年『呟きの遠吠え』にて単行本コミックスデビュー。その他の作品に『千の夏の夢 鯨庭作品集』「ばかな鬼」など。

『言葉の獣』(1巻)

鯨庭
リイド社トーチC 770円(税込)
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

 

言葉のグラビティ

薬研と東雲のコンビが、この作品を象徴している。「いつも何描いてるの?」(15P)。薬研のこの一言の前後で、東雲の表情は全く別物だ。「君はいいよ」(17P)。つまり、薬研の言葉は東雲に届くようになったのだ(そして薬研は、やっけんになった)。一つの言葉が含有するものは、人による。それがどうやって交わされたかにもよる。そのギャップは永遠で、どんな数式を解くより難しい変数に満ちている。だからこそ、神様のようで美しい。“見えている”東雲は、そう言ったのだろう。

川戸崇央 本誌編集長。地元に出張する機会があり、「盛岡という星で」という素晴らしい取り組みと出会った。ある地方都市を巡る物語。ぜひ覗いてみて下さい。

 

「いま生きているということ」

どうしたら言葉の獣が見えるのかという問いに「ひたすら考える」と東雲は答える。それが「いちばん難しい」と。そう、魑魅魍魎が跋扈する言葉のジャングルを歩いていると、ぜんぶ放り出したくなるときはある。それでも言葉の獣に会いにいこうと誘われてページをめくり、怖いものや、美しいものに出会う。その繰り返しこそ、作中で引かれる谷川俊太郎さんの詩にある「生きているということ」なのか─なんて安直な結論はナンセンス。言葉の獣と対峙するにはひたすら「考えろ」!

西條弓子 運動とかまぢむり……な人生だったのに、筋トレに突如ハマる。なんにも考えず体を動かすのは、肩こり、腰痛、メンタルにも最高です(考えろ!)。

 

言葉を獣として表現するこの発想力よ!!

すごい。“言葉が獣になって見える”なんて、著者はどんな思考や過程からこのようなアイデアに至ったのだろう。“言葉の生息地”で主人公はさまざまな獣に出会う。それは「頑張れ」の獣だったり、Twitter=〈言葉のジャングル〉のような地での誹謗中傷という醜い獣であったり、美しい詩の圧倒的な姿(見開きでどんと目に飛び込んできては魅了される)だったり……。読後、毎日浴びるように言葉を無意識に目にしていることに気づき、可視化してみたら、と考えては意識するようになった。

村井有紀子 階段を踏み外しひどい捻挫となりまして、約3週間歩けない引きこもり&メンタル病みかけ生活を送りました……。今はテニスがしたくて仕方ない!

 

言葉も年を重ねていく

毎日何気なく発する言葉を、体現した幻想的な獣たち。観察しているだけで興味深い。“いいね”がつくさまは花びらで、誹謗中傷は、あばらが浮き出た奇妙な獣によって表現されており、どれも「こうきたか!」と唸ってしまう。作中に登場する谷川俊太郎さんの「生きる」という詩。読み返すのは、中学生のころ以来だろうか。当時はただただ言葉を目で追っていただけだったが、今はひとつひとつの言葉が迫ってくるようだ。言葉も自分と一緒に年を重ね、成長するものだとあらためて感じた。

久保田朝子 「バチェロレッテ・ジャパン」シーズン2がもうすぐスタート! 「バチェラー」ファンとしては楽しみしかありません。SNSを見て予習中です。

 

今までにない言葉のかたち

普段自分たちが発する言葉・綴る言葉がこんな姿になって現れたら……そう考えるだけで、目に見えるすべての文字が今までとは違う一面を見せてくれたような気持ちになる。“言葉の生息地”に棲む動物たちは美しいものだけではない。だがそれがいい。人間の本心を溶かし込んだ動物たちの姿が好きだ。そして“言葉の生息地”の風景描写が緻密で、ページを通して静かな森林の空気が漂ってくる。めくるたびに「言葉」との新しい出会いを届けてくれる、何度も読み返して味わいたい物語。

細田真里衣 ハリポタ特集を担当しました。子供のころ、シリーズの新刊を買ってわくわくしていた自分に「大人になって、特集を担当できたよ!」と伝えたい!

 

「一つの言葉に対して考え尽くしたことある?」

“言葉の獣”が解釈によって姿を変えるように、たとえ同じ言葉であってもそこにある真意は決して同一ではない。意思疎通のため日常的に言葉を用いながら、意識の外側に追いやっていたその事実に改めて気づかされた。“言葉の獣”を見る唯一の方法は、一つの言葉に対して「ひたすら考える」ことだと東雲は言う。作中で思考し続ける東雲と薬研の姿が、私たちに問いかけてくるのだ。「言葉ってなんだと思う?」と。きっと、あなたの心にも「考えろ」という東雲の言葉が響いてくる。

前田 萌 遊ぶときはいつも全力な愛犬。でも幼い甥っ子には優しく接しており、どんな触られ方をしても怒りません。私にももう少し落ち着いた対応でも……。

 

文字の羅列が生み出す、宇宙的な果てしなさ

今まで、言葉の力に心動かされてきたことが幾度もある。それは小説やマンガであったり、あるいは誰かの呟きでもあった。ただ文字が並んでいるだけなのに、それを知る前と後では少しだけ世界が違うように思える。作中でやっけんたちが発した言葉は、様々な生き物として姿形を変えていく。そこでは、「言葉が見せる美しさ」と「言葉を使う恐ろしさ」が同時に描かれる。ひとつの言葉には、辞書に書かれたものに限らず、無数の意味が潜んでいるという果てしない広がりに気づける一作。

笹渕りり子 忙しくなるとすぐ頭の中がとっ散らかる悲しき性を持つ私。そこで思考の整理のため朝に日記を書くことに。さて、今回はどこまで継続できるかな!

 

「言葉」って、不自由だ。

本著の中でも指摘されていたことだが、自分が言葉に込めた意味と、相手が受け取る言葉の意味は、必ずしも一致しない。会話は通じるが、大きなトラブルにならないまでも、微妙に違って伝わってしまったなぁ、と思うことがままある。逆も然りで、私も零してしまっている思いがあるのだろう。あぁ、言葉の獣が見えてくれたら……。残念ながら、私には言葉の獣が見えない。だからせめて、どんなに日常の中に言葉が溢れていたとしても、出来る限り誠実に、言葉を扱っていこうと思うのだ。

三条 凪 念願の競馬デビュー。目の前を駆ける筋骨隆々の馬は想像の何倍もカッコいい! 若者も多く、馬券はなんとネットでも買える。イメージ変わります。

 

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