浮世絵を描くことで、妖怪たちと戦う! 葛飾北斎を主人公にした新感覚のバトル漫画『あやかし浮世絵導師』がアツい

マンガ

公開日:2022/12/7

あやかし浮世絵導師
あやかし浮世絵導師』(ちさかあや:漫画、大志充:原作、酒巻浩史・熊谷純:脚本/KADOKAWA)

 江戸時代に隆盛を極めた「浮世絵」。これは現在でも世界的に評価されている、日本が誇るべき文化のひとつだ。そんな浮世絵を生み出してきた「浮世絵師」である葛飾北斎や鳥山石燕らもまた、世界中にその名を知らしめている。彼らは実に多くの「妖怪画」を残してきた。実在するはずのない存在を、それぞれの想像力を駆使して描き出したそれは、まるで現実を映し出したかのようでもある。いや、実在するはずのない、と言い切ってしまうのは野暮かもしれない。もしかしたら江戸には妖怪たちが存在していて、浮世絵師たちはそれを写実に描くことに命を懸けていたのかもしれない。

 そんなことを思わせられる漫画の第1巻が発売となった。『あやかし浮世絵導師』(ちさかあや:漫画、大志充:原作、酒巻浩史・熊谷純:脚本/KADOKAWA)。本作は実在した浮世絵師たちと、妖怪たちとの戦いを描いた新感覚のバトル漫画だ。

 物語の舞台は江戸、主人公を務めるのは、世界一有名な浮世絵師とも言われる人物。そう、葛飾北斎だ。彼がその名を名乗るのは後のこと。まだ川村鉄蔵と呼ばれていた少年の頃からストーリーははじまる。

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あやかし浮世絵導師

 中島伊勢の養子であり跡取りだった鉄蔵は、「鏡師」になることを義務付けられていた。しかしながら鉄蔵の関心が向くのは、絵。日がな江戸の町を歩き回り、目にしたものを描くことに夢中になっている。そんな鉄蔵の評判は芳しくない。町民たちからは「ごくつぶし」とさえ呼ばれ、蔑まれていた。養父である伊勢も、鉄蔵に厳しく当たる。それもこれも、立派な鏡師になってもらいたいという思いからだった。

 ところがあるとき、鉄蔵の家が奇襲される。伊勢の前に姿を現したのは、妖(あやかし)・火車。炎を自在に操る妖怪だ。伊勢は鉄蔵を守るために戦う。そしてその過程で、本当の姿を見せる。なんと伊勢は、雲外鏡という妖(あやかし)だった。つまり鉄蔵は妖怪に引き取られ、育てられていたのだった。しかし善戦も虚しく、雲外鏡は火車に敗れてしまう。怒りと絶望に震える鉄蔵。そのとき、鉄蔵は不思議な能力を発揮する――。

あやかし浮世絵導師

 父を亡くした鉄蔵に限らず、本作には実在した浮世絵師たちが複数名登場する。彼らは絵を描くことで、対峙する妖(あやかし)の魂をそのなかに封じ込めることができるという。その能力を使い、鉄蔵は火車への復讐を決意するのだ。実際、北斎をはじめとする浮世絵師たちは妖怪画を描いた。その史実に「それは妖怪を封じるためだった」というフィクション上の設定をミックスさせたことで、本作は物語としての面白さと深みを出すことに成功している。誰もが知っている浮世絵師たちが描く力を使い、妖怪たちと戦うのだ。しかも妖怪が登場するシーンや白熱のバトルシーンは浮世絵のようなタッチで描かれるという、粋な演出も効いている。その展開を見ていると、否が応でも盛り上がってしまうだろう。

あやかし浮世絵導師

 また、鉄蔵が抱く伊勢への思いには胸を打たれる。本当の父親ではないことに加え、その正体が妖怪だったこと。それを知った鉄蔵の混乱や戸惑いは相当なもののはず。それでも彼は、自分を愛してくれた伊勢のことを思い続ける。本作の第一幕(第1話)はバトル漫画であると同時に、父と息子の関係を描く、親子の物語でもあるのだ。

あやかし浮世絵導師

 伊勢を亡くした鉄蔵は、鳥山石燕に引き取られる。どうやら石燕は妖怪たちのことや、鉄蔵に秘められた能力について詳しく知っているよう。いわば「師匠」のような存在となる石燕が、今後は鉄蔵とどう絡んでいくのかも読みどころだろう。

 日本の文化である浮世絵をモチーフに、派手で重厚なバトル漫画を成立させた本作。1巻が発売されたばかりだが、近い将来、人気作へと上り詰めていく予感がする。

文=イガラシダイ

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