偏差値30台でも「医学部へ行ける」と直感し医師に。開発途上国で“小さな命”を救い続ける医師・𠮷岡秀人さんの人生訓

社会

公開日:2022/12/23

最後の講義 完全版 𠮷岡秀人 人のために生きることは自分のために生きること
最後の講義 完全版 𠮷岡秀人 人のために生きることは自分のために生きること』(𠮷岡秀人、NHK、テレビマンユニオン/主婦の友社)

 NHK BSで不定期に放送されている「最後の講義」。各界の第一人者が「もし人生が最後だとしたら、何を伝えたいか…」をテーマに、若者たちに生き方を伝える番組だ。

 番組の内容をまとめた書籍「最後の講義 完全版」シリーズの最新刊『最後の講義 完全版 𠮷岡秀人 人のために生きることは自分のために生きること』(𠮷岡秀人、NHK、テレビマンユニオン/主婦の友社)では、開発途上国を中心に医療活動に取り組む特定非営利活動法人ジャパンハートの創設者で、小児外科医の𠮷岡秀人さんによる言葉を収録。「人のために生きることは自分のために生きること」と説く𠮷岡さんの人生、そして、その経験から導かれた言葉の数々は、私たちの心を強く打つ。

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浪人生時代に医学部へ「行けるかもしれない」と直感

 高校時代には「全然勉強してなかった」と振り返る𠮷岡さん。卒業後は、浪人生活を送るための予備校の試験ですら「5回」も落ちて、ようやく「ギリギリ」の点数で合格したという。

 転機は、浪人生時代に訪ねた友人の家だった。京都大学を志望していた友人の家にあった「受験用の偏差値表みたいなもの」を見て、「医学部」に印が付けられているのを発見。そのとき、𠮷岡さんは「俺でも行けるかもしれない」「俺、医学部行こうかな」と直感した。

 のちに医師となった𠮷岡さんは、30歳で単身、軍事政権下で政情不安定なミャンマーへ渡った。以降、十分な医療を受けられない開発途上国の“小さな命”を救うために尽力している。

「感性の声」を信じなければ「未来も信じられない」

 浪人生時代に医学部に「行きたい」ではなく「行ける」と、根拠なく考えられたのはなぜか。当時の経験を振り返る𠮷岡さんは「感性の声」を信じる重要性を説く。

「感性の声」とは、「生まれた時からずっと、いろんな体験とか知識とかを得て、それを自分の中に積み上げたすべての情報を僕の脳が処理して、一瞬に出した答え」だと述べる𠮷岡さん。いわば「全脳の声」であり、反対にあるのは「左脳の声」と表現できる「理性の声」だという。

 なおも、𠮷岡さんは「感性の声を聞いて、そのとおりに行動する」「それが今、自分に出せるベストの答え」と持論を展開する。医学部への進学を決断した当時の意志は「人生の中で一番最後の声」であり、その声を「今、信じられなかったら、未来も信じられない」。自身の経験をふまえた𠮷岡さんの主張は、限られた人生で“決断”に迷う人びとの背中を押してくれる。

 独白だけではなく、若者たちの質問にも応じながら人生を説く𠮷岡さん。本書では「嫌いな自分との向き合い方」、失敗したときに「不安な自分をどう安定させているのか」など、受講生からの素朴な疑問にも真摯に向き合っている。

 今まさに、𠮷岡さんの講義を目の前で聞いているかのような臨場感も本書の魅力であるが、収録されている言葉の数々は、老若男女を問わず“生きるための糧”になりうる。

文=カネコシュウヘイ

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