賞与支給平均250万円固定! 富山の老舗金属メーカーに学ぶ、好待遇で人の思いを好循環にする方法

ビジネス

公開日:2023/2/2

社員が努力して、働けば働くほど報われる仕組み 社員にとって働きがいのある会社になるヒント
社員が努力して、働けば働くほど報われる仕組み 社員にとって働きがいのある会社になるヒント』(釣谷宏行/ダイヤモンド社)

「社員・部下とどうコミュニケーションをとればいいのか、悩んでいませんか?」というトピックの記事や、その課題を解決するためのツールの広告が気になっているという方は、読者の皆さんの中にも少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。ご紹介する『社員が努力して、働けば働くほど報われる仕組み 社員にとって働きがいのある会社になるヒント』(釣谷宏行/ダイヤモンド社)は、富山の老舗金属メーカーが「働きがいのある会社」であること一点をまっすぐに追求した結果生まれた好循環の模様を描いた、普遍性のある一冊です。

 著者の釣谷宏行氏が経営するのは富山県高岡市に本社を構え、10以上のグループ会社をまとめあげる株式会社CKサンエツ。富山が位置する「越中」地方で、高級鋳物である「可鍛」鋳鉄の鋳造に従事する、中越可鍛製作所として1920年に創業。「中」と「可」をアルファベットにした際の頭文字を取った「シーケー」という呼称が1974年に冠されてからも、じっくりと業務規模拡大を進めました。


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 1986年に地方銀行勤務を経た釣谷氏は現CKサンエツ社に入社し、中小企業診断士の資格取得や工場長への昇進などを果たしつつ、1997年に社長に就任しました。その際、「働きがいのある会社を目指す」と社員に宣言したところ、「それはどんな会社のことですか」と質問し返されたといいます。そこで「正直者が報われる会社」「働けば働くほど報われて社員が得をする会社」と答えたところから、釣谷氏の「思いの循環」に関する飽くなき探求が始まります。

 本書に収録されている細かい経緯や社員同士の対談は専門的な内容も含んでおり、筆者は技術的な話題にはあまりピンときませんでしたが(逆に近い業種に従事する方にとっては、かなり具体的に書かれているため「こんなに詳しく書いても大丈夫なのか」と驚かれる内容なのではないかと思います)、オンリーワンの企業になるために、価格でしのぎを削るのではなく価値観・ブランド意識を磨いていったプロセスは、幅広い業種において参考になると感じました。

 それはたとえば、環境配慮を施した配管機器が、2007年に業界初となる「グッドデザイン賞」を受賞し、その流れで世界初のカドミウム・鉛無しの「環境めっき」の技術を開発した事例です。「ものづくり日本大賞」優秀賞の受賞や国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)への登録も果たし、結果として圧倒的な差別優位化が行われることになりました。ちなみに有名なところでは、東京スカイツリーの非常階段、新国立競技場の鉄骨にメッキ技術が使用されていると紹介されています。

思い起こせば、NETIS登録に至る当社の成功への道のりは、他社との無益な過当競争からの脱却を図ったことが出発点でした。価格競争した相手企業は、2013(平成25)年に閉鎖を決定しました。私は、その決定を支援するために同社と契約を結び、複数の設備を1億円で当社が譲り受けることにしたのです。

 さらなる「質」の磨き上げが進んだ転機は、1991年にアメリカで設立された「働きがいのある会社」ランキングGPTW(Great Place to Work)への応募だったといいます。日本の中小企業(従業員数100~999人)部門で2018年に5位にランクインして以来、トップ10に入り続け、2022年のランキングでは最高位の2位を記録。中規模部門のうち、北陸の会社・製造業でのランキング入りは極めて稀なケースだといいます。「思いの循環」に対する熟成された眼差しが、社員の賞与の高額固定支給(年2回・平均125万円ずつ)や、社員各々のモチベーションやライフステージを勘案したカスタマイズ可能な待遇を実現し、長らくの探求が上位入選という形で実ったのです。

労務費は経費ではなく「投資」です。経費として捉えると、経営者は「働いてもらった分だけ払う」べきと考えますが、「投資」であれば先に支払っても問題はありません。後で回収できれば良いのです。加えて、それは社員と前払い契約を交わしたことと同等になるため、会社方針に従って働かない人は評価が低くなり、場合によっては退職してもらうこともあるということです。

 日本で一番働きがいのあるメーカーというだからこその道義心で、東日本大震災のときに茨城県の工場の被災を乗り越えたエピソードや、従業員持株会型ESOPで社員の資産形成をアシストしている事例など、より良く組織構成員のチーム力を醸成するための具体的ヒントに溢れた一冊です。

文=神保慶政

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