「正気ですか?」社内システムをワンオペ管理してる私を…解雇!? 有能女性エンジニアの人生再開拓コメディ!

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公開日:2023/8/1

え、社内システム全てワンオペしている私を解雇ですか?
え、社内システム全てワンオペしている私を解雇ですか?』(伊於:漫画、下城米雪:原作、icchi:キャラクター原案/主婦と生活社)

 人間らしい生活を送りたい。多くの人がそう思っているはずだが、実際問題「普通の生活」を送るのは案外難しい。仕事が忙しいと日常がおろそかになってしまいがちだし、気づけば家と会社の往復しかしていない……という話もよく聞く。しかし、人間には休息が必要だ。その中で重要となってくるのが「業務の効率化」だが、これを実現できたとしても、必ずしも自分にいい方向へ向かうとは限らない――。

え、社内システム全てワンオペしている私を解雇ですか?』(伊於:漫画、下城米雪:原作、icchi:キャラクター原案/主婦と生活社)は、優秀だったがゆえに不要と判断され、解雇されてしまったエンジニアのお仕事コメディ。小説投稿サイト「小説家になろう」および「カクヨム」で連載されていた小説が原作で、コミカライズされた本作も大反響を呼んでいる。

 主人公は、新卒で入社したホワイト企業の例外的にブラックな部署を引き当て、心身ともに疲弊していたオタク女子エンジニア・佐藤愛。大好きだったアニメや漫画を楽しむ時間もなく心がやせ細っていく中、たまたま放送されていた深夜アニメに触発され、自身の心を守るためにコスプレでの勤務を決意。ここから愛は、コスプレ勤務を続けつつ5年かけて全業務を自動化し、社内システムをワンオペする優秀なエンジニアへと成長していった。

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え、社内システム全てワンオペしている私を解雇ですか?

え、社内システム全てワンオペしている私を解雇ですか?

 しかし社長が替わったことで、コスプレ姿で勤務していた愛は難癖をつけられ解雇されてしまう。会社のために「オルラビシステム」という最高のシステムを構築し、やっとの思いで自動化したにもかかわらず、そのシステムがあれば管理人員は不要と判断されたのだ。

え、社内システム全てワンオペしている私を解雇ですか?

 会社を経営していく側にとって、経費削減も大事な仕事ではある。しかし現場のことを理解していない人間の独断は、重大な判断ミスに繋がる危険性を秘めている。

え、社内システム全てワンオペしている私を解雇ですか?

「なにひとつ無駄のない完璧な大改革を成し遂げるために」と愛を解雇した会社がこれからどんな道をたどるのかは、想像に難くない。本書には、こうしたエンジニアはもちろん、社会で働く人が一度は直面する理不尽な「あるある」が多数ちりばめられている。

 解雇後、ファミレスで1人荒れていた愛は、幼馴染・鈴木健太と再会。健太が自ら新たに立ち上げた事業「真のプログラマ塾」に愛をスカウトする形で、2人で新たなスタートを切る。そこはあくまでプログラミングを教える「プログラマ塾」だが、愛は自身の経験や持ち前の明るさで、体験教室へやってきたお客さんや生徒の心を改善し、悩みから解き放っていく。訪れる人々もまた、残業続きでなかなか家にいられず家族に冷たい目を向けられるなど、さまざまな理不尽に直面しており、藁にも縋る思いで塾を訪れていたのだ。

え、社内システム全てワンオペしている私を解雇ですか?

 愛は、時に際どいコスプレで出社するある種の変わり者ではあるが、仕事に追われてまわりが見えなくなっている人の心をほぐし、「生活」が成り立つよう促していく。その言葉は、かつて自身が生気を失っていたからこそ、アニメに救われたからこそのものだろう。家族との仲がうまくいかなくなっていた男性も、愛の「感謝の言葉がほしかった」「『やってもらって当たり前』ってのはダメ」という言葉で自分の言動を見直し、妻や子どもとの関係を修復させることができた。もちろん愛のエンジニアとしての腕も本物で、プログラミングの技術でもきちんとお客さんを救っている。

 社会ではストレスと戦うこと、耐えることが良しとされがちだが、本作を読んでいると、時には逃げる勇気、バランスを見つめ直す勇気も必要なのだと改めて実感させられる。人ひとりが守れるものには限界があり、相手に優先順位があるのと同様に、自分にもそれがあっていいのだ。そう考えれば、重い心も少しは軽くなる。

 本作品は、エンジニアとして働く人だけでなく、日々理不尽な要求と戦い疲れている人、環境が合わず苦しんでいる人にもぜひ読んでほしい一冊。愛の型破りな働き方や明るい言葉、新たな人生を切り開いていく人々の姿が、きっと見えなくなっていた道に気づかせてくれることだろう。

文=月乃雫


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