口減らしで身売りされた元伯爵夫人の趣味は覗き見? 王宮内にはびこるスキャンダルや陰謀を覗き見で解決していく探偵事件簿

マンガ

公開日:2023/8/21

王宮女官の覗き見事件簿 ~空気読まずにあなたの秘密暴きます~
王宮女官の覗き見事件簿 ~空気読まずにあなたの秘密暴きます~』(もり:原作、大橋薫:漫画/少年画報社)

 秘密の片鱗に触れたとき、たまに無性にその全貌が知りたくなる。押すなと言われたスイッチほど押したくなるのが人間で、隠されていることを解き明かす達成感は蜜の味がするものだ。そして同時に、それはいい暇つぶしにもなる。『王宮女官の覗き見事件簿 ~空気読まずにあなたの秘密暴きます~』(もり:原作、大橋薫:漫画/少年画報社)は、そんな隠された謎を“覗き見”することに目覚めた元伯爵夫人の物語。

 原作者であるもり氏は、『屋根裏部屋の公爵夫人』など頭の切れる女性の逆転劇で人気を得ている作家。それだけに、この「事件簿」ではどんな推理を見せてくれるのか期待が高まる。また2023年8月28日には、本作品の単行本版1巻と2巻も同時発売される。

 本作品の主人公は、隣国の伯爵家に嫁いだものの、子どもができないことを理由に無一文で捨てられた元伯爵夫人のアリエス・クローヤル。現在はマーデン王国の王宮で女官として働いており、意地悪な女官長に果てしなく続く地味な作業、資料室の整理を命じられている。また、周囲からも「捨てられた元伯爵夫人」と蔑まれていた。

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 しかし実は、彼女にとってそんな王宮での暮らしはむしろ好都合。読書をしたり、メイドに扮して王宮内を動き回ったりと、王宮内にはびこるスキャンダルや陰謀、策略などの秘密の情報を集めて1人ひそかに楽しんでいた。

 そうした生活を送る中、ある日王宮内で殺人事件が起こってしまう。近衛騎士のイヤオルという男性が殺されたのだ。そして犯人として目をつけられたのは、イヤオルと男女の関係を持っていたメイドのユッタ。しかしアリエスは、事件の真相を推理して真犯人を特定し、冤罪で捕らえられかけていたユッタを救うことに成功する。そしてその後もさまざまな事件を解決し、ユッタや衛兵ジークなど、少しずつ信頼できる仲間を勝ち取っていく。

 アリエスは、基本的には無表情で冷めた印象の女性だ。自身を慕っているメイドやジーク、周囲の人々にも笑顔を向けることはない。でも、幼少期からそうだったわけではない。子ども時代は心優しく感情豊かだった。口減らしのために伯爵家に嫁ぐという形で売られ、その伯爵家でもひどい扱いを受けたうえ無一文で追い出され、出戻った女を養う金はないと再び実家に見捨てられたゆえの結果なのだ。どこへ行っても冷遇されてきたアリエスは、どれだけの絶望と失望を味わったのだろう? 彼女の心の傷を思うと胸が苦しくなる。

 しかし、そんな辛い人生を送ってきたアリエスだからこそ、心の内では人を見定め、自分を慕ってくれる者を守り、気遣うことを忘れない。たとえ自分が巻き込まれる可能性があっても、見捨てることはせず果敢に立ち向かっていく。そんな彼女の静かな誠意を見ていると、奥底には今でも幼いときと同じ優しい血が流れているのだと感じる。

 2巻以降も、王宮ではさまざまな事件や悪事が巻き起こる。その中には、アリエスも予想しなかった事実もあって――!? また、中には思わず笑ってしまうような展開も。侯爵家嫡男であるイケメン騎士ロレンゾが隠していた“ある事実”には、筆者も思わず「えっ!?」と声を上げてしまいそうになった。この辺りは、ぜひ本編で確認してほしい。

 無表情に着々と情報をかき集めて悪事を暴き、王宮での立場や身分に囚われず断罪していくスカッとする展開は、読めば読むほどクセになりそう。本書を読めば、謎解きや推理が好きな人が楽しめるのはもちろん、普段理不尽に晒されモヤモヤを抱えている人も、立ち向かう勇気をもらえるかもしれない。

文=月乃雫

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