現代にタイムスリップした戦略家の中国人が無名の歌手をマネージメント。三国志をまったく知らなくても楽しめる『パリピ孔明』の魅力

マンガ

更新日:2023/10/4

パリピ孔明
パリピ孔明』(四葉タト:原作、小川亮:漫画/講談社)

 孔明という人物について、魏、呉、蜀が争った三国時代が終わった後、蜀のブレーン、つまりは軍師(大将のもとで、作戦・計略を考えめぐらす人。軍の参謀※)としてさまざまな策略を練り、皇帝を助けた人物だということしか知らなかった。

 そんな私が、孔明が主人公のある漫画を読み始めて止まらなくなってしまった。

 笑える、驚かされる、勉強になる。この豪華3点セットを兼ね備えた漫画がある。現在、累計発行部数160万部を突破、2022年にテレビアニメ化、そしてとうとう今年(2023年)の9月27日、向井理主演で実写ドラマになる『パリピ孔明』(四葉タト:原作、小川亮:漫画/講談社)だ。

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 ストーリーは孔明が現代日本に転生して、シンガーのマネージャーとして策略を張り巡らすといった内容だ。シンガーの名前は月見英子、クラブで歌ってもうまくいかずに悩んでいる女性である。しかし孔明は、英子の歌声に魅せられて、彼女のマネージャーになる。孔明は三国志きっての頭脳を持っているので、当時の経験を生かして彼女をプロデュースするのだ。

 なぜこの漫画が多くの人を魅了するのか考察すると3つのポイントが浮かび上がってきた。

 まずは私のように三国志を知らない人でも楽しめるという点だ。むしろ『パリピ孔明』から三国志を読み始めた人もいるかもしれない。

 ヒロインの英子もそういった一部の読者と同じで三国志を知らず、序盤にちらっとスマホで調べた程度である。英子はクラブで歌っても人気が出ないことに自信をなくしていたが、彼女の歌に惚れ込んだ孔明によって再び頑張ろうと決意する。

 2つ目のポイントはキャラの魅力だ。

 現代日本でも昔の中国でもぶれない聡明さがあり、なおかつあたたかい人柄の主人公の孔明はもちろん、私はヒロインの英子にも惹かれた。見た目の可愛らしさだけではない。孔明のプロデュースに甘えず努力をして、時にはネガティブになりつつも前を向く英子は、読んでいる私にも元気をくれる。また、三国志マニアのバーのマスターなど、どこか可愛げのあるキャラたちが多いことも本作の人気に影響しているだろう。

 最後のポイントは、新人シンガーが上り詰めるにはプロデュースも必要だという現実的な要素が盛り込まれていることではないだろうか。

 ヒロインの英子の歌声に孔明は魅了されたが、彼女がどんなに歌唱力があっても、アピールできる場が限られていると聴衆も減る。これはアイドルや舞台俳優など、ステージに立つ職業とも共通している。工夫をして英子の歌を集中して聴けるように環境を整えることが、彼女の才能を周囲にアピールするために大切なのだ。

 孔明は転生前の中国での戦によってそのことを知り尽くしているので、彼女のもとに客が集まるよう工夫を重ねる。そのため、本作はご都合主義に陥ることなく、「そんな手があったか」と読者に驚きを与えるのだ。

 あくまでも上記の3点は、私が感じた本作の魅力である。

 読み進めるにつれて、読者それぞれが新たな魅力を発見することもあるだろう。人気俳優の向井理さんが、どのように実写ドラマで孔明を演じるのかについても期待が高まる。ぜひドラマ化の前に、原作漫画を手にとってほしい。

※デジタル大辞泉より。

文=若林理央

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