高齢処女のアラサー女性やセックスレスに悩む主婦も利用。2時間2万5000円で心と体を満たす「女性用風俗」のリアル

マンガ

更新日:2023/10/4

僕は春をひさぐ~女風セラピストの日常~
僕は春をひさぐ~女風セラピストの日常~』(水谷緑/講談社)

 ブラのホックを外すみたいに、心のホックも外してほしい。そして、体も心も大切に抱いてほしい。そう願いたくなるほど、女としての自分に自信がなくなる日が女性にはあると思う。

僕は春をひさぐ~女風セラピストの日常~』(水谷緑/講談社)は、女性のそんな心の穴を女性用風俗の観点から描いた漫画だ。

 本作は2年間にも及ぶ綿密な取材をもとに描かれた、女性用風俗のリアルストーリー。主人公は女性用風俗店でセラピストとして働く、悠。様々な悩みを抱える女性客たちは2時間2万5000円と、決して安くはない利用料金を支払い、心の穴を埋めていく。

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■性欲を満たすだけじゃない!女性用風俗の利用客が埋めたい“心の穴”とは…?

 悠を指名する女性客は、年齢も職業も様々。風俗というと性欲を満たす場所だと思われやすいが、彼女たちが本当に満たしたいのは日常生活では埋められない“心の穴”だ。

 男性経験がほぼない女医は友人から「高齢処女」と笑われたことから、女性用風俗を利用。管理職の独身女性は悠とのシチュエーションプレイが、自分を解放する唯一の術となっている。

 そんな女性客たちの中でも特に感情移入してしまうのが、夫とのセックスレスに6年間も苦しんでいる42歳の主婦・たかこ。たかこら夫婦は育児を遂行するチームメイトのような関係。たかこは時折、夫に抱かれたいと思うが、勇気を出して誘っても拒絶されてしまう。そんな夫の反応が悲しくて、たかこは勇気を出して女性風俗を利用することに。6年ぶりに男性に体を預けた。

 久しぶりに女であれたたかこは悠との時間を味わった後、母親業を求められる中で見失ってしまった本来の自分の姿を思い出す。

“そうだ 私「お母さん」じゃない ただの欲望を持つ ふつうの人間だった”

 この気づきにハっとさせられる人は、多いように思う。大人になったり、子どもができたりすると人は周囲から求められる役割を立派にこなそうとして、人間らしい自分を見失ってしまうこともある。だが、人であるのだから、生々しい欲望があるのは当たり前。誰かに心も体も愛されたいと願うことはかっこ悪いことでも、弱さの証でもないのだ。

 大切な気づきを得たたかこはその後、悠のリピーターになるのだが、挿入してもらえない関係にモヤモヤ。女性風俗の利用料金が高額で頻繁に通えないことにも悩み、マッチングアプリを利用して、見知らぬ男性と体の関係を持ってしまう。

 だが、セックス後、相手の男性が音信不通になったことから、金銭が絡まなくても女として愛される“無性の恋愛”の尊さを再確認。それを機に、夫と向き合う時の心境に変化が現れる。

 そして、そんなたかこの姿を受けて、夫の態度も変わっていく。たかこら夫婦のエピソードは、いつの間にか子どもを通してしかパートナーを見られなくなってしまった夫婦に、ずしりと響くことだろう。

 また、本作はセラピスト側である悠の心理描写も巧みで、胸に刺さる。実は悠、過去に婚約者にふられたことから、人を愛すことに消極的になり、自分の在り方に悩んでいる。そんな悠が女性客との交流を通して自信を付けていく姿には、なんとも言えない感動があるのだ。

“「ありがとう」って言われる度 自分の点数が上がってく感覚 だから応えたい 相手が求めることを 女性を幸せにしたい”

 客と一線を越えた関係にならないようにブレーキをかけながら、女性に癒しを与え続ける悠。彼が今後も、どう女性の心を包み込み、成長をしていくのか楽しみだ。

 1巻の最終話では、ライバル的存在となる虎太郎が登場。違反行為をしつつ、女心を手玉にとる“沼らせセラピスト”の虎太郎に悠はどう立ち向かうのか、ぜひチェックしてほしい。

 恋人でも知り合いでもなく、1回きりで終わってもいい遠い存在だからこそ、さらけ出せる弱さがある。そう気づかせてくれる本作で“自分の春”を思い出す女性は多そうだ。

文=古川諭香

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