鬱マンガの新鋭?! 戦わなければ死ぬ、戦いに勝利しても死ぬ――八方塞がりの絶望に夢中の『CHILDEATH』

マンガ

公開日:2023/9/29

CHILDEATH
CHILDEATH』(向浦宏和/白泉社)

 ある日突然、子供たちが不条理な死に直面させられる。頼れる大人も、夢も希望もなく、ページをめくるたびに胸が張り裂けそうになる展開がひたすら続く……。そんな“鬱マンガ”と呼ばれるようなジャンルに新鋭が登場した。その名も『CHILDEATH』(向浦宏和/白泉社)だ。

 物語の舞台は、魔女によって全ての人間が“大人になると死ぬ呪い”をかけられてしまった世界。唯一地球上で生き残っているのは、12歳以下の子どもたちだけ。けれど、その子どもたちも常に魔女から命を狙われ、日々命を落としていく。そんな絶望的な世界で、やがて子どもたちは軍隊のごとく部隊を組織し、魔女との壮絶な戦い“魔女狩り”に身を投じていくことになる。

CHILDEATH

 ランドセルを背負っているのかと思いきや、討伐した“魔女の肉”とやらを加工して作った飛行装置を担ぎ、縦横無尽に空を駆け巡る子どもたち。また、子どもたちの通う小学校が私立の進学校だからか、指揮・統制も大人顔負けレベルで出来上がっている。そのため、時には魔女と拮抗する戦いを見せるものの、よく考えれば“大人になると死ぬ呪い”がかけられている世界なのだから、戦いに勝利してもいずれ死にゆく運命……。それゆえに、魔女を倒すために自爆を図るなど、痛々しいほどに捨て身な戦いをする。――戦わなければ死ぬ、戦いに勝利しても死ぬ。この八方塞がりの絶望に煽られて、ページをめくる手が止まらない。

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 いずれ死ぬことが決まっている少年少女たちが、この絶望的な世界を前にして戦うこと以外に一体何ができるのか? それこそが、いわゆる“鬱マンガ”の見どころのように感じるが、そこで注目してほしいのが主人公のモモだ。自らの命を顧みず、もはや生死や善悪の概念も狂い、魔女狩りに興じていく子どもたち。その中でモモだけは、いつか死ぬ運命だとしても絶対にみんなで助かる、みんなと一緒に大人になるのだと、心に希望の火を灯し続けている。

CHILDEATH

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 戦いに勝つことよりも、みんなで大人になりたいと願うモモ。“鬱マンガ”には、彼女のように極限状態だからこそ生まれる強い感情、信念がある。そしてその希望の灯火が消えそうになるほどの絶望が襲いかかるたびに、一層それは輝きを増すのだが……。実は『CHILDEATH』は、そんなセオリー通りにはいかない。いや、むしろ2話以降は“鬱マンガ”と判断するのは早計だったと思うほど、壮大なバトルファンタジーが幕を開ける。

 次々と仲間たちが命を落とすなか、モモだけは“大人にならない呪い”をかけられていることが判明する上、どうやら彼女はとある事件をきっかけに大人を誰よりも憎んでいたこと……そんな薄暗い過去が明らかになる。魔女の呪いとはもしかしたら誰かの祈りなのではないか? と、考察が捗る緻密なストーリー展開。

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 そして、物語が進むにつれて魔女の呪いを活かした巧みな頭脳戦が繰り広げられ、ただ無力にやられているだけの姿はそこにはない。2話からはまるで新たな扉を開いたような……そんな躍動感のある展開があなたを待ち受ける。『CHILDEATH』とは一体“何マンガ”なのか。ぜひあなたの目で確かめてほしい。

文=ちゃんめい

©向浦宏和/白泉社

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