過剰な剣道愛を持つ転校生が殺された謎。優等生に見える転校生の“本性”が暴かれていくサイコスリラーコミック

マンガ

更新日:2023/10/30

左利きの言い分 右利きと左利きが共感する社会へ
誰が奥寺翔を殺したのか?』(河田雄志:原作、行徒:漫画/講談社)

 突然やってきた転校生が思わぬ言動を見せ、小さな田舎町に衝撃を与えていく――。『誰が奥寺翔を殺したのか?』(河田雄志:原作、行徒:漫画/講談社)は、そんな恐怖にゾクっとさせられる一作だ。

 本作は1990年代の地方都市を舞台にした、サイコスリラーコミック。どこかおかしい転校生・奥寺翔の正体や死の真相が気になり、ページをめくる手が止まらなくなる。

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■過剰な剣道愛を持つ転校生が異常な言動を見せ始めて…

 1995年11月13日、ある事件が小さな田舎町を震撼させた。1年ほど前に転校してきたばかりの男子高校生・奥寺翔が何者かによって殺されたのだ。

 奥寺は両親が事故で他界したことから、祖父がいる田舎町へ引っ越してきた。前の学校では剣道部であったため、転校先の川坂高校でも剣道部に入り、果たせなかったインターハイ出場の夢を叶えたい。そう口にする奥寺の姿に、クラスメイトや教師は好印象を抱く。

 だが、川坂高校の剣道部はヤンキーのたまり場になっており、部活動が困難な状態。同級生はそんな現状を奥寺に教えるも、彼は諦めない。剣道を通じてヤンキーを更生させ、一緒にインターハイ出場を目指したいと、無謀にも思える夢を口にし始める。

 なんて、心がまっすぐな少年なのだろう…。奥寺の野望を聞くと、そう思えるかもしれないが、その夢を語っている時の彼は何とも気味の悪い笑顔。純粋な剣道愛だけが彼を突き動かしているわけではないように思え、ゾクっとさせられる。

 後日、奥寺はヤンキーたちに直談判。剣道部を本来あるべき姿に戻し、一緒に汗を流そうと青春ドラマのような声かけをする。当然、ヤンキーは反発。奥寺はひとりのヤンキーに喧嘩を吹っ掛けられた。

 ところが、勝敗は意外な結果に。なんと、奥寺は華麗な身のこなしと思わぬ強さを見せつけ、相手のヤンキーを倒してしまったのだ。

 そんな奥寺の姿を見て、警戒を強めたのは、ヤンキーのリーダー城場。そして、ある日、城場の警戒心がより強まる出来事が起きる。城場が他校のヤンキーから喧嘩を売られた際、なぜか助けにやってきた奥寺は躊躇なく、相手の膝をバットで殴り、骨を砕いたのだ。

 とても普通ではない奥寺の行動を目の当りにした城場は驚愕。この一件から奥寺の過去を調べ始めたヤンキーらは奥寺が以前、通っていた高校で不審な事件が起きていたことを知ってしまう――。

 人当たりがよく、口から出る言葉は全て優等生な奥寺は一見、好青年のようだ。だが、黒い感情を隠しているような薄気味悪い笑顔を時折見せたり、自分の目的を達成するためなら、どんな犠牲も厭わない姿勢であったりするため、本性が分からなくなる。

 なぜ、奥寺は剣道場を取り戻すことに対して過剰なほど一生懸命になるのだろうか。そして、彼は誰に、どんな理由で殺されてしまったのだろうか。本作は謎だらけであるからこそ、先のストーリーを追うのが楽しい。ぜひ、自分なりの推理を立てながら事件の真相を見届けてほしい。

文=古川諭香

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