今、夢を見ていないと証明できる? 世界18か国でベストセラーになった『父が息子に語る 壮大かつ圧倒的に面白い哲学の書』
更新日:2024/2/29
AIに質問をすればある程度の回答は返ってくる現代社会。ビジネスでも教育でも、重要な教養の一つと再認識されているのが「哲学」です。定義は様々ですが、『父が息子に語る 壮大かつ圧倒的に面白い哲学の書』(スコット・ハーショヴィッツ:著、御立英史:訳/ダイヤモンド社)では「深く突きつめて考えること」とされています。著者はイェール大学で法学を修めた後、オックスフォード大学で哲学を修めた経歴を持っており、本書は18か国でベストセラーとなっているといいます。
難しそうな響きがする哲学ですが、実は日常のありとあらゆるところにその切り口が存在していることが本書を読むとわかります。特に手っ取り早いのが、子どもと対話することです。「4歳児の神学」と題された箇所では、4歳のレックスに「神さまってほんとにいるの?」と問われた著者が、「君はどう思う?」と聞き返した際の秀逸な回答が書かれています。
「本当は、神さまは見せかけだけど、信じているふりをしたら、本当にいることになる」
私は驚いてしまった。4歳の子どもとは思えない深い考えだ。40歳の大人だったとしても深い考えだ。私はレックスに、どういう意味か説明してほしいと頼んだ。
「本当はいないんだけど、ぼくたちが、神さまはいるというふりをしたら、神さまはいることになるってこと」
このレックスの考え方は哲学用語で「虚構主義」(虚構とわかりつつもそれを有効なフィクションとして利用すべきだとするスタンス)と呼ばれるといいます。
子どもの質問では他にも「自分の見えている赤という色は、ママにはどんな赤に見えているの?」という質問が収録されています。これは哲学用語で「表現の不可能性」や「私秘性」というそうで、尋ねられたら思わず「そ、それは…どう説明すればいいんだろう」と言葉を詰まらせてしまう方も多いでしょう。
本書に書かれている5つの言い回しを覚えれば、手強い哲学的な話し相手である子どもと、いくらかキャッチボールを楽しむことができます。
・きみはどう思う?
・なぜそう思う?
・もしきみが間違っているとしたら、それはどうしてだと思う?
・それはどういう意味?
・◯◯って何?
コツは、「教える(大人)/教えられる(子ども)」という関係ではなく、子どもを対等な対話相手として扱うこと。子ども自身に考えを話させること。話した事柄の反対も考えを巡らせること、だといいます。
「表現の不可能性」や「私秘性」のもう一つの例で、筆者自身も「子どもの頃、そんな想像したことがある!」と思ったものがあります。今起きている出来事や感受している感覚が「夢の中ではない」と言い切れるか、というものです。
今、すごく現実を過ごしている気がするけど、いつかどこかでハッと目が覚める時が来るのではないか? 今まわりに一緒にいる人たちは、自分と同じ経験を本当にしているのだろうか? そんなことは年を重ねるにつれて考えなくなっていきましたが、著名なフランスの哲学者・デカルトも、この「夢」の難問について深く突きつめて考えていたといいます。
あなたもデカルトと同様、あれは夢だったのかと驚いたことや、やれやれ夢でよかったと安堵したことがあるはずだ。だとすれば、いま自分は夢を見てるのではないと確信することは難しい。
いま自分は目を覚ましているかどうかさえ確信できないなら、これまで経験してきたことの確かさを確信できるはずがない。
深く突きつめて考えることは、自分の「世界の見え方」を変えるだけでなく、多様な他者の「世界の見方」を想像することにもつながるでしょう。経営育児・教育・コミュニケーションなど、幅広い分野に活用できる教えが収められている一冊です。
文=神保慶政
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