顔にアザのある女子高生× 顔を認識できない教師『青に、ふれる。』。見た目に関する価値観や偏見を覆す学園マンガ

マンガ

PR公開日:2024/2/8

青に、ふれる。
青に、ふれる。』(鈴木望/双葉社)

「あなたは自分の顔が好きですか?」と聞かれて、胸を張ってイエスと答えられる人がいったいどれだけいるだろう。マンガ『青に、ふれる。』(鈴木望/双葉社)の主人公・瑠璃子は笑顔の絶えない女子高生だが、幼い頃からたびたび見た目に対する口さがない言葉をかけられ、傷つきながら生きてきた。太田母斑。1000人に1人か2人は発症するという青いアザを、生まれつき右目のあたりに持っている。

 見知らぬナンパ男にがっかりされ、初対面の人には「そのアザどうしたの?」と聞かれ、事情を話せば謝られ……瑠璃子の存在には常にアザの話題がつきまとってしまう 。人に気を遣わせるのもいやで、慣れたふりをしているけれど、本当は「あたしなんて」という自己卑下から抜け出せず、誰かの容姿に対する悩みも「それくらい、いいじゃないか」と思ってしまう。そんな自分を押し殺し続けているから、心の底から胸を張って自分を好きだと言うこともできない。そんな葛藤を抱えた彼女が出会ったのが、相貌失認の高校教師・神田だった。

青に、ふれる

青に、ふれる

 他人はおろか、自分の顔すら判別できない彼は、身長や髪型、いつも身につけているものなど、生徒たちの特徴をノートにびっしりまとめている。けれどそのノートに、瑠璃子の記載だけがなかった。アザがあるから、というのは確かなのだが、相貌失認の神田にはそれが単なる青いアザには見えていない。もともと誰の笑顔も輝いて見える神田には、笑う瑠璃子が青く光り輝くオーラを発しているように見えたのだ。そのため、瑠璃子のことだけはどこにいても見つけ出すことができた。

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青に、ふれる

 まるで、運命。けれど単純な教師と生徒の恋に結びつかないのが、本作の魅力である。たとえばアザは、メイクで隠したりレーザー治療などの手段もある 。けれど相貌失認は治療法が確立されておらず 、他人からいっそう理解されにくい。相貌失認と誰も気づかなかった幼い頃、人間関係でトラブルを起こせば、気を引くためにやっていると両親に誤解され、診断されてからも疎まれる。不登校になりながらも、それでも前に進むため教師の道を選び、同じように不登校を乗り越え笑う瑠璃子に手を差し伸べようとする神田のもがきが胸を打つ。

 アザは隠せる、と書いたが、だからいいというわけではない。なぜ隠さなくてはいけないのか、を私たちは考えなくてはいけないのだと本作を読んでいると強く思う。なぜ、ありのままの自分に胸を張ってはいけないのか。もっときれいになりたいと、自分で願って努力するのではなく、なぜ他人からとやかく言われないために防御しなくてはならないのか。自分の価値観で誰かを否定したり貶めたりする権利なんて誰にもない。仮に悪意なく誰かを傷つけてしまったとき、自分の至らなさやそれを受け止めきれない弱さとどう向き合えばいいのか。本作は、瑠璃子と神田をめぐる人々を通じて、人と人とが肩書や先入観を超えてつながっていく姿を、丹念に描いていく。

 誰よりも自分が自分の味方になって、抱きしめてあげるために。そうして癒された心を、誰かに手を差し伸べる力にするために。自分を肯定し、他者を尊重していくための“心”が、この作品には詰まっている。

文=立花もも

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