「スマスマ」「めちゃイケ」放送作家・鈴木おさむ氏の『仕事の辞め方』。サラリーマンでも役に立つ会社を辞めてもうまくいくコツとは?

ビジネス

更新日:2024/4/5

仕事の辞め方
仕事の辞め方』(鈴木おさむ/幻冬舎)

 2023年10月12日、放送作家の鈴木おさむ氏が自身のX(旧Twitter)で、放送作家業を「辞める」と発表した。このことは、日本最大のポータルサイトであるヤフーニュースがトピックスに掲出するなど大きく報じられた。1人の人間が、仕事を辞めることにそれだけ驚きがあったということだ。

 放送作家がどんなことをしている人かは知らなくても、彼の名前を聞いたことがある人は多いだろう。19歳からキャリアをスタートさせ、現在51歳。32年間にわたり、『SMAP×SMAP』『めちゃ×2イケてるッ!』などの人気番組を手掛け、現在も多数のレギュラーを抱える。脚本家としても活躍し、自身にとって最後のテレビドラマとなる『離婚しない男―サレ夫と悪嫁の騙し愛―』が放送中だ。

 はたから見れば順風満帆、下世話だが収入だってかなりありそうだ。このまま続けていれば安泰なようにも思えるが、2024年3月31日をもってきっぱりと辞めるという。

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 そんな鈴木氏が上梓した『仕事の辞め方』(鈴木氏おさむ/幻冬舎)では、彼が32年間で築き上げたキャリアをなぜ自ら手放そうと考え、決断したのか、そしていかに「辞めるための準備」をしたのかを知ることができる。同じようにキャリアを築いてきたものの、新たな道へ進むことを考えている人にとって大いに参考になるだろう。

 鈴木氏は、現在の仕事を辞める理由について、数年間の自分を振り返ると「生き方にワクワクしていない」ことに気付き、「人生の舵を大きく切るため」だと説明する。今後は、「若者を応援すること」に注力したいという。なんだかうらやましくなるほど前向きな理由だ。自分とは環境が違いすぎると、読むのを諦めそうになるかもしれない。でも待ってほしい。特に「どのように仕事を辞めるか」の章では、会社員でもフリーランスでも、仕事を辞める際に心掛けておくべきことが書かれている。

 ここでは彼が実行した「仕事を辞めるまでの手順」を詳細に明かしている。まず鈴木氏が行ったのは「付箋を貼る」こと。どういうことかと言うと、いきなり「辞める」と伝えるのではなく、仕事仲間などに「辞めるという思いつき」を話したのだという。このとき大事なのは「なるべく明るくライトに言うこと」。そうすることで相手はさほど真剣には受け止めないから、後日撤回したっていい。しかし、その可能性は伝えている。鈴木氏自身もこの段階では「まだ本当に辞めようという覚悟が出来ていなかったかもしれない」と振り返る。

「付箋を貼る」行為の中で気持ちが固まったら、次に重要なのは「辞めることを伝える順番」だ。「話す順番を間違えると、その気持が揺らいだりして、自分の人生が見えにくくなる」と鈴木氏。彼の場合、まずは妻で芸人の大島美幸に話し、「すごくいいじゃん!」と賛同を得たうえで、次に辞める気持ちを後押ししてくれたり、勇気付けたりしてくれる「仲間」と思える人たちに伝えた。その後は辞めることで「迷惑をかける人」、つまり取引先など仕事関係の人たちの順で伝えていった。順番を考えて話したことで、自分の気持ちがブレることなく、周囲の人たちも辞めることを「応援してくれる」状況になったという。

 また、鈴木氏は「会社の辞め方」にも言及している。周囲の人々を見ていて、「会社を辞めてうまくいっている人、うまくいっていない人」には明確な差があり、その違いはやはり「辞め方」にある。会社に対して不満があっても、自分を雇ってくれたことへの感謝を「フリ」でも良いからして、笑顔で送り出してもらう。そして会社とのパイプを完全に断ち切るのではなく、会社との仕事を続けながら辞められないか相談する。頼れるものはとことん頼る。そういう人が、うまくいっているそうだ。

 要はただ辞めるのではなく、「応援してもらう」状況で辞めることが重要。仕事を辞めると言うと、“リセット”するような印象があるが、そうではない。その後の人生にも、「辞め方」は大きく影響する。もし仕事を続けずリタイアするとしても、やはり人間関係にも影響してくるだろう。だから一時の感情に流されたりせず、いかに「辞め方」が重要なのか、痛感させられる一冊だ。

文=堀タツヤ

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