優勝したWBC 大谷翔平の起用秘話など。トヨタ、日本電産、王貞治監督…日本を築き上げてきた人々のインタビュー集に人生を学ぶ

ビジネス

公開日:2024/3/23

一生学べる仕事力大全
ワンオペ店の仕込み術』(柴田書店:編/柴田書店)

 分厚さに、まず驚かされた。ビジネス誌・致知に45年にわたって掲載されてきた数々のインタビューが一冊にまとまった『一生学べる仕事力大全』(藤尾秀昭:監修/致知出版社)。様々なジャンルで活躍する74人のプロフェッショナルが、仕事力について語っている。

 計54本、雑誌の歴史を物語るような約800ページはまるで辞書のような分厚さ。箔押しの表紙の佇まいとともに圧倒される。もちろん内容も濃厚で、最初から最後まで読もうと思ったら数日かかりそうだ。

トヨタ、日本電産、王貞治監督……日本を築き上げてきた人々の珠玉のインタビュー

 新・経営の神様の異名を持つ稲盛和夫氏、2024年2月に逝去した大創産業の創業社長といった数々の創業者、日本を作ってきた経営者・知識人・著名人たちの名前が並び、誰しもたっぷりと語っている。やはり成功の陰には凄まじい努力があり、艱難辛苦がある。もちろん、その人たちの人生全てが参考になるわけではない。モーレツに働いて成功を手にしてきた日本の経営者のやり方を模倣し、現代に持ち込むのは難しいかもしれない。

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 ただ、経験に裏打ちされた貴重な話は、どれも面白い。本自体は重たいのだが、刺激をもらい、圧倒され、とせっせと読み進めてしまう。

侍ジャパン 栗山監督×禅僧の対談も

 特に印象的だったのは、侍ジャパンの栗山監督の対談である。2023年のWBC優勝後に臨済宗円覚寺の横田管長と対談したもので、大谷翔平選手の話はもちろん、オールスターというべき豪華な一流選手の起用秘話、ヌートバー選手の存在なども触れられていた。

 一見野球と禅という、まるで違う世界の交流に思えるが、一心に努力を重ね、修行を積むという点、人とのかかわり方など、共通点が浮き出てくるのが興味深い。

同じような努力をしても、片やスター選手になるし片やベンチにも入れない。世の中ってそういうものじゃないですか。

 横田管長の「野球は不平等だと思っていた」という発言に対し、栗山監督がこう答える。さらに、

不運だなで終わるんじゃなくて、不運にも意味があると。そうすると、自分が前に進みやすくなる。

 客観的に自分の言動を顧みることで、気づいてくれたらいいと続く。栗山監督はその腰の低さ、謙虚さでも話題をさらったが、自分自身を過小評価なほどに低く見積もり、だからこそ絶えず努力し、人と真心を込めて向き合い、野球に取り組んでいたことが伝わってきた。

 経営者は応援されることが大切だとよく聞くが、なるほど、栗山監督は(あくまで指導者・監督ではあるが)、優れた経営者であるとも言えるだろうと思う。

年齢とともに刺さるところが変化する可能性を秘めた本

 脳の使い方を教えることでオリンピック選手を躍進させた教授や、ドトールコーヒーとタビオの創業者ふたりの対談など、ほかにも興味深く面白いインタビューが続く。

 今「ふーん」「よくわからない」と思っても、さらに年を重ねればわかることもきっと出てくるだろう。本当に「一生学べる」本である。仕事を頑張りたい、そう思った時に1冊手に取ってみてはいかがだろうか。

文=宇野なおみ

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