ライオンの生体価格は驚くほど安い⁉︎ 元動物園獣医が解説する、もし動物園の人気者たちを飼うとしたら

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/23

妄想お金ガイド パンダを飼ったらいくらかかる?
妄想お金ガイド パンダを飼ったらいくらかかる?』(日経ナショナルジオグラフィック)

 小学生の頃、アニメ映画のプリンセスが大きなトラを飼っているのを観て「ネコじゃなくてトラを飼ってみたい」と夢見たことがある。大きな動物を飼ってみたいというのは、誰でも一度は考えることだろう。

 そんな夢にかかるお金や必要な設備について、元動物園獣医の北澤功氏が現実的に教えてくれるのが『妄想お金ガイド パンダを飼ったらいくらかかる?』(日経ナショナルジオグラフィック)だ。憧れの動物と暮らすには何が必要なのか紹介していこう。

動物園のアイドル・パンダ

 赤ちゃんが生まれれば日本中で話題になる人気者・パンダ。日本にいるパンダはすべて中国からのレンタルで、報道によるとレンタル料はペアで約1億4000万円。絶滅危惧種のため個人でレンタルすることは不可能だが、もし叶ったとしたら何が必要なのか。

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 パンダは体が大きいので、餌の確保もひと苦労だ。主食の竹は1頭につき1日15キロが目安。うまく放置竹林を購入できれば節約できそうだ。業者から仕入れる場合は1日に1万円ほどかかる。手に入れた竹は、鮮度が落ちないように冷蔵保存がおすすめ。専用の冷蔵庫が数台必要になるだろう。

 それからパンダの飼育に欠かせないのが遊具。体の発達や、コミュニケーション能力向上のために遊びを促すことが大切だ。飼育場に土を盛って小さな山を作ってあげ、タイヤを与えるなど工夫して遊び場を作ってあげよう。飼育場には冷暖房や換気システムの設置も忘れずに。このように設備、食費、電気代など、どれを取ってもイヌやネコとは比べものにならない。

のんびり屋の偏食家・コアラ

 可愛らしいビジュアルで大人気のコアラ。一緒にのんびり過ごせそう……なんて想像してしまうが、実際はかなり飼育が難しい動物。単独行動を好むため、どれだけ愛情を向けても人間に懐くことはないそうだ。少し寂しい現実だが、妄想の中では飼ってみることにしよう。

 コアラの飼育でもっとも大変なのが、餌となるユーカリの葉の確保。多くの動物はその種に合わせて開発された固形飼料があるが、コアラにはない。代わりにリンゴやバナナを食べるということもなく、ユーカリの葉のみ。愛知県の東山動植物園によると、コアラ1頭にかかる餌代は月に約66万円。日本に自生していないので、栽培にも輸入にも費用がかかるのだ。

 またコアラは感染症にかかりやすいという。オーストラリアにはワクチンがあるが、日本では入手困難。診ることができる医者も少ないため、動物園では多額の費用をかけて衛生管理に努めている。個人で飼うなら気をつけたいポイントだ。

群れごとの多頭飼いを推奨・ライオン

 百獣の王・ライオンは、動物園のSNSなどで可愛らしい姿が公開されることもあり、ネコのように飼ってみたいと憧れる人も多いはず。そんなライオンは野生では10頭前後の群れで暮らしている。動物園でも群れでの飼育が推奨されているため、個人で飼う場合も多頭飼育になりそうだ。

 ライオンを飼育するには、まず猛獣飼育許可を申請する。それから群れごと暮らせる500平方メートルの土地に、脱走防止のため周囲を4メートル以上の壁で囲む。防護柵や二重扉も必ず設置しよう。運動のため、上り下りできる大きな岩も置いてあげたい。その他、水飲み場や爪とぎ用の丸太、空調設備など、飼育場全体の建設費はざっと4億円ほど。

 餌は、1日に1頭あたり4~5キロの肉。安く仕入れたとしても食費だけで月に20万以上はかかりそうだ。しかしライオンの生体価格は、なんと1万円以下。昔は高額だったが、繁殖が容易で飼育数が増えたため、価格が下がったのだそう。場所と餌代がなんとかなれば、意外と手が届く存在かもしれない。

 本書で紹介されている動物は全部で32種。飼えない動物との比較として、ペットとしておなじみのイヌやネコなどを飼うときのシミュレーションも掲載されている。珍しい動物たちと一緒に暮らす妄想を楽しんだあとは、動物園や水族館に会いに行くのもおすすめだ。

文=冴島君貴

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