後味が悪すぎるホラー映画『ミスト』ってどんな話? 原作者スティーヴン・キングが絶賛した結末までの描かれ方に注目

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公開日:2024/3/31

ミスト 短編傑作選 (文春文庫)
ミスト 短編傑作選 (文春文庫) 』(スティーヴン・キングスティーヴン・キング/文藝春秋)

 街なかに霧が出ているのを見ると、映画『ミスト』を思い出す。霧の中で、何か化物が出てきやしないかと、ワクワクと妄想に浸ってしまうホラー好きもいるはずだ。アメリカで2007年に公開され日本では2008年に公開された『ミスト』は、15年以上たった今もなお観た人の印象に残り続けている。

 映画『ミスト』は、スティーヴン・キングの1980年に発表された中編小説『霧』が原作のSFホラー。アカデミー賞で7部門にノミネートされた『ショーシャンクの空に』や『グリーンマイル』の監督である、フランク・ダラボンが監督脚本を務めた。キング作品の『ドリームキャッチャー』にも出演したトーマス・ジェーンが主人公のデヴィッド・ドレイトンを演じた。

 物語は、災害級の嵐の後に主人公が幼い息子と隣人と、スーパーマーケットへ買い物に行くところから始まる。すると、買い物中にすさまじい勢いで霧が発生する。そのさまはこれから何が起こるのかと恐怖心を運んでくるが、先が見えない濃い霧の中からやってきたのは謎のモンスターたちだった。彼らはバラエティ豊かで、見るものを飽きさせない。キバと口の付いた触手が巻きついてきたり、巨大蜘蛛のような生き物が酸性の糸で襲ってきたり人に卵を産み付けたりする……。動いている人は無視せずきちんと襲いなさいと、マナー研修でも受けたかのように情け容赦なく人を襲う。本能に忠実に動いているだけかもしれないが、そこまでお腹が空いているの? 苗床足りないの? と突っ込みたくなる。

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 霧がたちこめる外に出てしまうと襲われかねないため、人々はスーパーマーケットの中に留まることになる。スーパーの扉を開けて霧の中へ踏み出せば、襲われるかもしれない。しかし、いつまでスーパーに留まっていなければならないのか。疲弊していく人々の心理が細かく描かれる。そこには、地方の閉鎖的雰囲気を持つ人や自分の信じるものを頑なに曲げようとしない隣人、まるで教祖のように振る舞う狂信者がいた。中でも、1人の狂信者によって演説が始まってしまう。序盤では、引きながら遠巻きにしていた人々も、狂信者の言う内容が当たっていくため、段々と取り巻き化していった。それはスーパー内の一大勢力となって、行動をエスカレートさせていく。モンスターたちのせいで人々が無惨な最期を遂げていく中、極限に置かれた人間は自分の心を守ろうとする。強く信念を持つものがいたら、助けを求め信じたくなるのも当たり前だ。そして、狂信者の言いなりになって生贄を求めはじめる群集心理がモンスター並みに恐ろしい。

「僕を怪物に殺させないで」息子と約束した主人公の絶望的な結末が後を引く

 はたして主人公は、スーパーマーケットから息子と共に脱出できるのか、霧は晴れるのか。原作とは異なる結末は衝撃的だと話題になった。主人公たちは、あの時あの行動をとらなければ違う結末を迎えられたのではないか、たらればばかりの思いが余韻としてしばらく残り続ける。今なら、U-NEXTやAmazonプライムのレンタルで視聴することができる。スティーヴン・キングが褒め称えた結末を、ぜひ味わってほしい。

文=山上乃々

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