都市に潜むバケモノが起こす事件に4人の美少女と立ち向かう。愛と狂気の犯罪事件簿『バケモノのきみに告ぐ、』

文芸・カルチャー

公開日:2024/5/10

バケモノのきみに告ぐ、"
バケモノのきみに告ぐ、』(柳之助/電撃文庫/KADOKAWA)

 屋敷の閉ざされた部屋で起こる密室殺人、予告状を送り財宝を盗み出す怪盗、夜な夜な路地裏で人を襲う切り裂き魔、高速で走る急行列車の中で起こる惨劇。推理小説や映画のフィクションで起こるような大事件の犯人が、もし人ならぬバケモノで、そのバケモノが実は私たちの友人や恋人、さらには家族の中に潜んでいたとしたら、あなたはそんな相手に愛情を抱けるだろうか。『バケモノのきみに告ぐ、』(柳之助/電撃文庫/KADOKAWA)は、そんな怪事件を調査し、都市の陰に潜むバケモノたちを追いかけるエージェントたちのクライムサスペンスだ。

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 古い時代の城壁に囲まれた城壁都市バルディウム。きらびやかな貴族街がある一方で薄暗いスラム街を抱えるこの大都市の裏では、時折、不安定な精神から魔法のような異能に目覚めた人間《アンロウ》が発生する。一般人には秘匿されるアンロウが起こす騒動を密かに処理する政府直属機関「カルテシウス」のエージェントである青年ノーマン・ヘイミッシュは、4人のアンロウの少女たちと共に都市で起きる4つの事件に関わる。

 人間という境域を超えた異能者がアンロウだ。見た目はごく普通の人間でありながら、人並み外れた身体能力を備えた者や、怪我を癒やす回復力を持つ者、異形に変身する者もいれば、超常現象を巻き起こす者もいる。彼らは他の人間より優れた能力を得た万能感から精神の箍が外れやすく、自制心や倫理観を置き去りにして本能や欲望のまま犯罪に走りやすい。アンロウの存在を知る一部の政府の人間は、人外のバケモノとして扱っている。

 しかし組織に属しながらもノーマンだけは、自分の管理する子飼いの4人のアンロウを可愛い女の子として扱う変わり者だった。銀髪と狙撃銃を持つシズク、金髪とトレンチコートのエルティール、黒髪と褐色肌のロンズデー、亜麻色の髪とステッキを手にしたクラレス。ひとりひとりがノーマンに対して強い執着心と独占欲を抱き、ライバルよりも深い関係を迫って誘惑する年頃の美少女たちに振り回される日常の光景が可笑しい。

 都市ではアンロウによる事件が頻発する。ノーマンと4人の少女たちは異能と推理力を働かせて、民衆の中に潜んだアンロウを発見し、凶悪な異能者と戦闘を繰り広げる。犯行の動機は、怨恨であったり、快楽であったり、あるいは自分の信じる正義のためであったりとさまざまだ。アンロウをバケモノではなく人として受け入れるノーマンだが、犯罪者に対してはどこまでも厳しい。何故なら彼にとってバケモノたらしめる基準は、異能のあるなしではなく目的のためなら殺人を厭わない狂気的な精神性だからだ。

 特殊な精神性という点では、ノーマンに付き従うシズクやエルティールたちも例外ではない。彼女たちも正義や法のためではなく、あくまでも自分たちが恋い慕うノーマンのために動く。そんな彼女たちにノーマンも愛情を返す。鍛えられた成人男性のノーマンといえども普通の人間だ。アンロウの少女たちが少し手をひねるだけで命を失う。そんな危険な存在を可愛い少女として接するノーマンもまた特殊な感性を持っているのかもしれない。

 しかし、どこか歪ながらも相手をあるがままに受け入れる心、それはまさしく純愛だと思うのだ。人とは違う自分を忌避せず受け入れるノーマンだからこそ、少女たちは命をかけ、恋心を強さに変えて凶悪な犯罪者と立ち向かう。そんな恋に生きる少女たちの姿が恐ろしくも愛らしく魅力的なのだ。

 名探偵と助手が複雑怪奇な難事件の謎を解き明かす、古典的ミステリーが好きな人はきっと気にいるはずだ。奇妙な純愛と狂気の物語を是非ご堪能あれ。

文=愛咲優詩

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