TRPGの大ヒットシナリオ『壊胎』がノベライズ化。人気クリエイターが手掛ける、ホラー・ミステリー・SFが絡み合うハイブリッドストーリーとは?

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更新日:2024/4/22

壊胎
壊胎』(原案・監修=むつー、執筆協力=黒十字、イラスト=東西/KADOKAWA)

 人気クリエイターむつーが原案・監修を手掛ける最新作『壊胎』が、2024年1月22日(月)に発売された。『壊胎』はTRPGの大ヒットシナリオのノベライズ作品だ。船内にいるのは、拉致された3人の男女。そして、異形の存在。そんなミステリアスな状況の中、ホラー、ミステリー、SFなどの要素が絡み合うハイブリッドなストーリーが動き出していく。

 TRPGとはTable talk Role-Playing Gameの頭文字をとった略称で、カードゲームやボードゲームと同様にプレイヤー同士がテーブルを挟んで対峙し、会話をしながらロールプレイング=役どころを演じてゲームを進めていく、というもの。ゲームごとにシナリオが用意され、ゲームキーパーと呼ばれる進行役が物語の展開を司る。生身のプレイヤー同士の駆け引き、プレイヤーとゲームキーパーが織り成すアドリブ的な展開の妙、練り上げられたシナリオがもたらす上質なストーリー体験、などがTRPGの面白さとして挙げられるだろう。

『壊胎』の原案・監修を務めるむつーは、TRPGマーケットで絶大な人気を誇るシナリオクリエイターで、ゲーム配信者としても活動をしている人物。ベースとなったTRPG版『壊胎』は大ヒットシリーズの1作目にあたり、2作目の『傀逅』とともにTRPGシナリオでは異例の累計2.5万部超えを記録している。

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ホラー、ミステリー、SFなどの要素が絡み合うハイブリッドなストーリー

 ノベライズ版『壊胎』のページをめくりながら感じるのは、物語に“引き込む力”の強さだ。一ページごとに、一文ごとに、物語の世界観が読む者の胸中に染みこんでいく。例えば第一章、物語の端緒となるこんな描写がある。

――ガンガンと、鈍く籠った音が響く。
一度悩むように止まったその音は、思い返したようにまた鳴り始めた。
……うるさい。
眼を開ければ、そこは何の視覚情報も入ってこない暗闇だった。覚めたばかりの脳を無理やり回転させ状況の把握につとめる。腕を動かそうとするとすぐ壁のような何かにぶつかった。そのまま右手を壁に這わせて形状を探る。側面の壁はそのまま私の頭上まで続いている……。どうやら私はドーム状の何かに覆われた狭い空間で仰向けに寝ているらしい。
(なんだここは。私はここで何をしている?)

 情景のディテールを丁寧に語りつつ、好奇心をかきたてる謎を提示する。これはTRPGではゲームキーパーの役目であり、ゲームキーパーの語り口が上手ければ上手いほど、プレイヤーはゲームの世界に引き込まれていく。つまり、ノベライズ版『壊胎』においては物語を語る著者がゲームキーパーであり、読者はプレイヤーとなってゲームの世界に身を投じることになる、とも言えるのかもしれない。そして、TRPGのシナリオには、会話と想像力だけでストーリーや世界観の奥深さを体験させる、という難題が課せられている。その高いハードルをクリアしてきた大ヒットシナリオを原作としているからこそ、ノベライズ版『壊胎』の持つ“引き込む力”は抗いがたいほどに強い。

 想像力があれば、ゴーグルなしで物語世界にダイブすることは可能なのだ。そんな当たり前で、でも忘れかけていた大事なことをあらためて思い出させてくれる一冊となっている。

文=山岸南美

【著者プロフィール】
むつー
活動歴14年のゲーム実況者。 2017年頃からTRPG配信を開始。以来熱中し、活動の主軸になっている。 シナリオ作者としても人気を博しており、本著原作『壊胎』『傀逅』シリーズは累計2万5000部越えの大ヒットを記録。 『傀逅』ではTRPGシナリオ初となる展覧会を実施するなど、シナリオ作者・配信者としてTRPGマーケットの最前線で活躍している。 最近一番買って良かったものは電気毛布。涙もろいのが最近の悩み。