300人が犠牲となったイタリアン・マフィア抗争…中心は「雑草」と呼ばれたギャンブラーだった

社会

2017/7/29

『復讐者マレルバ――巨大マフィアに挑んだ男』(早川書房)

『ゴッドファーザー』や『ジョン・ウィック』など、裏社会に生きる男たちを描いたフィクションは世界中で強い人気がある。しかし、現実に存在する裏社会では、フィクションすらも凌ぐような過激な抗争が繰り広げられている。

 イタリア中を震え上がらせた現実のマフィア同士の抗争について、中心人物自ら筆をとったのが『復讐者マレルバ――巨大マフィアに挑んだ男』(早川書房)だ。血で血を洗う惨劇の詳細がリアルに語られていく様に誰もが衝撃を受けるだろう。一方で、巨大組織に孤独な戦いを挑む男の姿には不謹慎ながら興奮を抑えることができない。

 本書は共著という形で、イタリア裏社会の重要人物が半生を振り返る内容になっている。著者の一人、ジュゼッペ・グラソネッリは1965年生まれでシチリア出身。家は貧しく、幼いころから地元の不良少年グループで幅をきかせる存在となっていく。喧嘩や窃盗を繰り返す中で、不良少年たちを束ねるリーダーシップが早くも発揮されていく。彼は「雑草(マレルバ)」と呼ばれ、大人からも恐れられた。

 やがて、地元で敵を作りすぎたジュゼッペはドイツのハンブルクに逃亡。ギャンブルの師匠と出会ってイカサマを仕込まれていく。当時、ジュゼッペはまだ17歳だったというから驚きだ。ギャンブルと女性との火遊びを繰り返すジュゼッペの青春は、まさにバラ色だった。しかし、1986年。兵役を終え、故郷に帰ってきたジュゼッペを悲劇が襲った。イタリアを代表する巨大マフィア「コーザ・ノストラ」がジュゼッペの一族を襲撃し、祖父たちが殺害されたのだ。

 そして、ジュゼッペは父親から一族の秘密を知る。グラソネッリ一族はコーザ・ノストラと諍いを起こしてしまい、身を守るためにマフィアの一員を殺害してしまっていた。襲撃は組織からの復讐だったのだ。

 憎しみに燃えるジュゼッペは家族と共にドイツへと逃れる。そして、ならず者たちを集めて犯罪グループを結成する。強盗やイカサマで資金を稼ぎ、あっという間に軍隊並みの武装勢力となった組織を、いつしかマスコミは「スティッダ」と呼び恐れるようになっていく。

 スティッダとコーザ・ノストラの抗争は白熱し、最終的には300人もの犠牲者を生み出した。ジュゼッペは1992年に逮捕されたものの、巨大マフィアと互角以上にわたりあった青年の名はイタリア中に轟き、ドキュメンタリー映画の題材にもなったほどだ。

 ジュゼッペは本書中、自分のことを「アントニオ」と呼ぶ。ジュゼッペは複数の偽名を使い分けており、「アントニオ」もその中の一つだ。自らを本名と違う名で呼ぶ行為は、描写に奇妙な客観性をもたらす。大物犯罪者の告白本にありがちな、自らを過剰に大きく見せようとする傾向が本書にはほとんどない。だからこそ、犯罪行為の手口の数々には信憑性があり、引き込まれてしまう。

 例外的に、かなり主観的な文章が目立つのは女性との時間を綴った箇所である。イタリア人らしく、ジュゼッペは女性に目がない。命の危険が迫っているときでさえ美女を見ると口説かずにはいられないのだ。彼の相手は娼婦、バーテンダー、会社員、人妻など、いつでも唐突に恋が始まる。ベッドの上で激しく優しく女性を愛するジュゼッペと、冷酷に復讐を進めていくジュゼッペの対比が非常に興味深い。

 裁判を終えたジュゼッペは終身刑が確定している。司法取引に応じなかったジュゼッペには、刑期の短縮も認められないだろう。ジュゼッペによるあとがきでは、司法制度への批判的な意見が垣間見える。また、イタリア国内では本書の濃密な内容が評価され、文学賞を受賞してもいる一方で、凶悪犯罪者の受賞資格を問題視する声も上がったという。塀の中からもなお、ジュゼッペはイタリア中への影響力を維持している。あまりにもセンセーショナルな内容を、日本の読者がどう受け止めるのか楽しみだ。

文=石塚就一