恋愛経験ゼロ、三十路女子に奇跡が……「絶望は幸福への伏線」大ベストセラー『夢をかなえるゾウ』水野敬也の本格恋愛小説!

恋愛・結婚

公開日:2017/9/15

『運命の恋をかなえるスタンダール』(水野敬也/文響社)

 恋愛をしない若者が多いという。2015年の国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、18~34歳の未婚者のうち、交際相手がいない人の割合は男性69.8%、女性59.1%という結果だったそうだ。恋愛をしない理由は様々だろうが、本当は恋愛がしたいのに「傷つくのが怖くて踏み出せない」という人もたくさんいるに違いない。

 『運命の恋をかなえるスタンダール』(水野敬也/文響社)は、恋に憧れながらも諦めていた主人公の成長を描いた、著者初の本格恋愛小説だ。図書館司書として働く主人公の聡子は、三十路で恋愛経験ゼロ。気になる人がいるが、過去に父が起こした事件のトラウマや自己評価の低さから一歩が踏み出せない。そんな聡子が、本の中から現れたフランスの文豪・スタンダールを名乗る男から恋愛指南を受けることで少しずつ変わっていく、というストーリーだ。

 本書では、随所にスタンダールの名著『恋愛論』の言葉が引用されている。200年前に書かれた書物にもかかわらず、現代の恋愛にすぐに役立ちそうなノウハウが満載だ。例えばこんな一節。

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「恋愛において、男はあまりにも容易な成功を軽蔑する。男は、向こうからくれるものをありがたがらないものである(恋愛論第10章)」

 本書の中で聡子は、想い人・鶫(つぐみ)に話しかけるチャンスを逸したことを悔やむが、それを聞いたスタンダールは「声をかけなくて良かった」と言う。前のめりになって自ら声をかけると、「この子は自分に気があるんだな」と相手に思わせてしまい、恋愛感情を育むことはできないからだ。女性から押しすぎる恋はうまくいかない、という話はよく聞くが、その理論は既に200年前から唱えられていたのだから驚く。

 また、本書で鍵となるのが、スタンダールが生み出した「結晶作用」という言葉。一度好きになってしまった相手は、欠点も含めて愛おしく思えてしまうということを表している。ただ、自分が好きな相手に対して結晶作用を強めてしまっては、恋はうまくいかない。相手に自分に対して結晶作用を起こさせるために必要な「周囲の評判になる」「悪女になる」などの行動を、スタンダールを名乗る男の指導のもと聡子は次々と実践していく。聡子の変わっていく様に自らを重ね、背中を押される読者は多いだろう。

 恋愛指南書としても恋愛小説としても楽しめる本書だが、スタンダールと聡子のやり取りがコミカルで面白く、思わず吹き出してしまうようなシーンも多い。そして、たっぷり笑ったり恋の行方にハラハラしたりした後は、終盤に大どんでん返しが待っている。

「絶望は幸福への伏線である」

 本書でスタンダールを名乗る男の最初であり、最も大事な教え。この言葉の裏に隠された意味と男の正体を知った時、誰もがじんわりと温かい気持ちになるはずだ。

 スタンダールの数ある名言の中でも有名なのが、

「恋は甘い花のようなものだ。しかしその花を摘むには、恐ろしい断崖絶壁の縁まで行かねばならない(恋愛論第41章)」

 という言葉。運命の恋はただ待っていてやってきてくれるものではなく、手に入れるためには困難がつきものということだろう。恋に憶病になっている人も、傷つくのを覚悟で一歩踏み出してみれば、聡子のように運命の恋に巡り合うかもしれない。もちろんその過程でたくさん失敗もするだろうが、心配はいらない。どんな時も「絶望は幸福への伏線」なのだから。

文=佐藤結衣