もはや論理的思考・MBAでは戦えない? 世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか

ビジネス

更新日:2017/10/10

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』(山口 周/光文社)

 世界的に高名な美術系大学院に幹部候補を送り込むグローバル企業、早朝のギャラリートークに参加しているニューヨークやロンドンの知的専門職の人たち。こうした取り組みが全世界のトレンドとなっているらしい。その理由を解き明かした1冊が、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』(山口 周/光文社)である。山口周氏は電通、ボストン・コンサルティング・グループを経て、コーン・フェリー・ヘイグループのパートナーとして、組織開発・リーダー育成を専門としている。

 マネジメントにおける意思決定には、アート(感性、直感)、サイエンス(論理)、クラフト(経験に基づく知識)の3つのバランスが大事だが、アカウンタビリティーをもたないアートはないがしろにされがちだという。しかし複雑化・不安定化したビジネス社会においては、数値化が必ずしも容易ではなく、論理だけでは白黒がはっきりつかないような問題が出てくるものだ。

 白黒つかない問題を解決する際に必要なのが「判断力」だ。エリートは、その判断力を磨くために「美意識」を鍛えているという。戦略系コンサルティング会社のマッキンゼーは2015年、デザイン会社を買収したという。企業やリーダーの「美意識」の水準が、企業の競争力を左右する時代なのだ。

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千利休は世界初のクリエイティブディレクター?

 経営トップでありアートの担い手として、最も有名なのは、故・スティーブ・ジョブズ(アップルCEO兼クリエイティブディレクター)だろう。実は、世界初のクリエイティブディレクターは千利休だそうだ。織田信長や豊臣秀吉というCEOのもとで、利休は職人にコンセプトを伝え、作品を制作させていた。400年も前に「侘び茶」というコンセプトで建築から庭までプロデュースしたのだから驚く。

 美意識の土台となるのは「アート」や「哲学」だが、欧米では「哲学」は必修の教養とされており、影響力のあるエリートたちは、美意識に基づいた普遍的なルールで自己規範を身につける必要があるとされる。日本では、この「哲学教育」がすっぽり抜け落ちているという。本書には、哲学を知らないエリートの危険性が述べられている。

 グーグルの社是は「邪悪にならない」である。変化が激しい領域で、社会的に大きな影響力を持つ事業を展開していくにあたり、明文化されているルールが変化に追い付かず、「決定的な論理上の誤りを犯さないために」という意味が込められているのだ。DeNAなどの、日本のベンチャーとは、会社の哲学として格が違うと著者は述べる。

 ソニーの井深・盛田の2人の創業者も、かつて理性よりも感性を意思決定にいかし、ウォークマンを世に出した。人をワクワクさせるようなビジョンや、人の創造性を大きく開花させるようなイノベーションは、論理と理性だけでは生まれないのだ。

文=泉ゆりこ