年間8000件を超える事故…弁護士に訊いた組体操問題の「責任の所在」

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公開日:2017/9/15


 昨今、運動会で披露されている「組体操」がたびたび議論の的になります。年間8000件を超える事故が起きていることが報告され、実施を見合わせる学校も増えています。危険性が認識されているにもかかわらず組体操で事故が起きた場合、その責任はどこへ向かうのでしょうか。ベリーベスト法律事務所の弁護士が説明します。

■組体操の事故は誰にどんな責任が発生する?

 組体操で事故が起こった場合、「誰に」「どんな」責任を追求できる可能性があるのでしょうか。まず「どんな」責任かについてお話します。

 大枠で申し上げると民事責任と刑事責任、それから行政的責任が挙げられます。民事責任とは、事故によって被害者が負った損害を賠償する責任のことをいいます。刑事責任とは、発生した事故について犯罪が成立する場合に刑罰を受ける責任のことです。

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 行政的責任は、公務員が懲戒処分を受ける責任のことです。例えば、指導に当たった教師の怠慢によって事故が起こった場合は、その教師に戒告や免職などの懲戒処分が下る可能性があります。地方公務員である公立学校の教師の場合は、懲戒処分の詳細は条例で定められています。

 私立学校であっても(行政的責任とはいいませんが)懲戒制度を設けているところが多いです。その場合は、就業規則に基づいて懲戒処分が下る可能性があります。なお、公立でも私立でも、生徒や保護者から公式に懲戒を請求する制度はありません。実効性は定かではありませんが、教育委員会や学校側に対して懲戒をはたらきかけることは可能でしょう。

■生徒が損害賠償請求の対象になる可能性も

次に「誰に」という点について説明します。

 被害者(の親)は誰に対して損害賠償を請求できるのでしょうか。この点、民法に「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」(709条)と定められており、事故原因となる行為を故意や過失によっておこなった人に対して賠償を請求できます。例えば以下のような人が考えられます。

・練習中に意図的に組体操を崩した生徒
・適切な指導を行わず事故を招いた教師
・生徒の能力を鑑みず危険な演目の実施を決めた教師とそれを許可した校長
・実施の判断に当たり適切な指導や助言を行わなかった学校の設置者

 このような場合に必ずしも請求が認められるかというとそういうわけではなく、過失の有無などによって、前述の民法709条の要件を満たすかが判断されます。

 私立学校の場合は教師個人と学校の設置者(学校法人や株式会社)のどちらに対しても損害賠償請求をすることができます。公立学校の場合は前述の民法709条ではなく、国家賠償法に基づき、設置者である都道府県や市区町村に対して請求することになります。この場合も、過失の有無などが問題となることに変わりはありません。ただし、指導にあたった教師個人に直接損害賠償請求することはできません。

 当然ながら、組体操で起きた事故の責任の所在を一概に決めることは難しいでしょう。原因は事故ごとに異なります。それでも、原因の調査がおこなわれて事故が誰かの故意や過失によってもたらされたものだとわかれば、該当する人物の責任が追求されます。

■最悪の場合「業務上過失致死傷罪」に

 次に、刑事責任について説明します。

 組体操の事故に関連して、問われる可能性がある罪としては、業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)が考えられます。これは、指導にあたっていた教師が、十分な安全対策を行わなかった等の事情により過失があると認められた場合に成立します。業務上過失致死傷罪が成立すると、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金が科せられます。

 なお、土台になった生徒が上に乗った生徒にけがをさせようとしてわざと落としたりするようなケースでは、加害生徒には傷害罪(刑法204条)が成立する可能性があります。

■学習指導要領には「組体操の実施」に関する記載がない

 好きでやっているスポーツでけがをするのと、学校行事でけがをさせられてしまうのとでは、事情が異なります。生徒に選択権がない以上、実施の判断をする学校側が安全に最大限配慮するのは当然です。

 そして現在、組体操は学習指導要領に記載がありません。そのため、実施の可否は学校側に委ねられていることになります。伝統的な演目という側面、保護者からの要望など、学校側が組体操を運動会で行うのは理由があるはずです。ただし、万全の体制が整っているか──そこが議論すべき点です。

文=citrus 弁護士 山川心