幸福は「3つの資本」のうえに成り立っている? 8つのパターンから「目指すべき人生」を選択する方法

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更新日:2017/10/10

『幸福の「資本」論』(橘玲/ダイヤモンド社)

 幸せになる方法はたくさんあるらしい。なぜなら本屋をのぞけばそんな本はごまんとあって、人間関係、仕事、お金、運などテーマは多岐にわたる。これらがいつまでたっても出尽くさないのは、幸福のカタチはいろいろあって、それを求める人の心も変わりやすいからだろう。

 本書『幸福の「資本」論』(橘玲/ダイヤモンド社)が異色な点は、幸せになる方法を3つの「資本」から分析していることだ。この3つの資本は職業や年齢、性別などにかかわらず皆に共通している。だからぶれることなく誰もが参考にできる考え方になっている。

 なぜ「資本」なのか。資本とは「富=幸福」を創造するものを指す。まずは幸福とは何かの定義だが、著者によれば幸福の条件を(1)自由、(2)自己実現、(3)共同体=絆の3つに集約する。これらに対応するのが(1)金融資産、(2)人的資本、(3)社会資本であり、金融資産は「自由」を、人的資本は「自己実現」を、社会資本は「共同体=絆」という幸福をそれぞれ生み出す。例えば、十分な貯蓄や不動産資産があれば働かなくてすむので、その分「自由」を得られるというわけだ。

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 全員が同じだけ資本を持っているわけではないし、どの資本を優先するかは人それぞれだ。一例として“プア充”があげられているが、これは年収100万~150万円の地方の若者たち(※)のことだが、最低ラインの収入にもかかわらず彼ら彼女らは満たされている。それは、彼らの生活は固い友情で結ばれた地元の仲間との付き合いが中心であり、それが彼らの幸福だからだ。彼らは金融資産や人的資産をほとんど持っていないが、社会資本は高い状態なのである。

 3つの資本は生涯一定ではない。増えたり減ったりするが、これらは運のようにコントロールできないものではなく、設計できるものである。どの資本を増やすかは、その資本が生み出す富(幸福)を選んで計画すればよい。

 本書の中の興味深いトピックのひとつに「超高齢社会の唯一の戦略」がある。「老後とは何か」をこの資本論的にいうと、「老後とは『人的資本をすべて失った状態』のこと」となる。

 私たちが富を手に入れる方法は、原理的に2つしかない。ひとつは人的資本を労働市場に投資すること、すなわち働いてお金を稼ぐことで、もうひとつは金融資本を金融市場に投資すること、すなわち資産運用だ。ほとんどのサラリーマンは、定年を迎えると年金以外の定期収入がなくなって人的資本がゼロになるため、あとは金融市場から富を得るほかなくなる。だとすれば、十分な金融資産がない場合はアウトなのだろうか?

 しかし、ここで著者はいう。「ここで大事なのは、『老後は自らの意思で長くすることも短くすることもできる』ということです。」。50代でリタイアすれば老後は長くなるが、80歳まで現役で働けば老後は短くなる。長い老後を維持するためには、より多くの金融資産が必要になるが、老後が短ければ、金融資産はそれほどたくさんいらない。

「老後問題とは、人的資本を失ってからの期間が長すぎることです。だとすれば、老後の経済的な不安を解消するもっともかんたんな方法は、老後を短くすることです。」

 もちろん、このためには「生涯現役」で働くことができなければならないが、長くなるのでその方法については本書を参照されたい。

 何が幸福かは個人の価値観によるが、自分の幸福ですらよくわからない。だが、本書に書かれている資本という切り口で考えれば、幸福な人生のための基礎設計は整理できるだろう。幸福に迷ったなら、本書を参考に一度幸福の棚卸しをしてみてはいかがだろうか。

文=高橋輝実

(※)「プア充」:『最貧困女子』(鈴木大介/幻冬舎)を参照