「あがり症」や「対人恐怖症」と似た症状が現れる「社会(社交)不安障害」…病気に翻弄され続ける著者が語る現実

ライフスタイル

2017/9/26

『ぼくは社会不安障害』(伊藤やす/彩図社)

「社会不安障害」という精神疾患をご存じだろうか? 現在は「社交不安障害」に名称が変更されているが、人前で何かをすると緊張してしまい、大きな苦痛を感じたり、回避しようとしたりして社会生活に支障をきたす状態を指す。生涯有病率(ある時点で発症している人の率)は3~13パーセント程度であることが分かっている。つまり、発症が認められた人だけでも1割を超える可能性があるということだ。

 実際には、適切な診断がされていないケースや、本人が罹患していることを自覚していないケースも多々あるそうなので、身近な人やご自身について「もしや…」と少しでも思った方には、ぜひ『ぼくは社会不安障害』(伊藤やす/彩図社)をオススメしたい。著者自身が社会不安障害(注:現在は名称が変更されているが、著者が敢えてこの名称を使用しているため、ここでも同様に記載)に罹患しており、これまでに得た知識や自らの経験について語った書籍だ。

 著者の伊藤やす氏は東京在住の30代男性。最初に社会不安障害の症状が現れたのは小学生の頃だった。所属していたサッカーチームの練習グラウンドに行くと、突然吐き気に襲われたのだという。そこから徐々に症状が悪化し、中学はさらなる悪夢の始まりだった。クラスメイトの前で話をする機会が増え、中学1年の後半から不登校になってしまったのだ。その時に初めて精神科を受診したが、診断は「不安症」。当時は社会不安障害の知識がない医師も多く、適切な治療がされないまま時が過ぎていく。

 中学3年で学校に復帰し、無事に高校入学を果たした伊藤氏。同じ中学の同級生が少ない学校だったため、ここで“高校デビュー”を試みる。髪を茶色くしてイメチェンを図り、彼女もできるなど順調な高校生活を送っているように思えたのだが…学年が進んでクラスが変わると、症状が悪化し始めてしまう。自分で病院を探して通院するも症状は改善せず、入学した大学でも孤独な日々を送ることになる。大学はなんとか卒業したものの、面接で緊張してしまい就職活動には失敗。卒業と同時に無職となってしまった。

 正しい治療を受けられず、苦しみながらも大学まで卒業した伊藤氏。その苦労は計り知れない。大切な試験や人前で発表する前に緊張することはあっても、何日も前、時には1週間以上前から緊張で動悸や吐き気をもよおすのは、どれほどの苦痛だろう。周囲からの理解も得られず、偏見の目にもさらされてきた。

 大学卒業後にアルバイトをしながら生活していた時に、転機が訪れる。母親が「社会不安障害」についての冊子を持ってきたのだ。この時、伊藤氏には「一筋の光が見えた」そう。そしてついに、「社会不安障害」と診断され、薬の服用が始まった。状態が落ち着いてきたところで、正社員での就職を目指し活動を始め、ある会社に入社。これがいわゆるブラック企業で、限界を感じて約3年間で退職に至った。

 その後、転職・退職を経験し、現在は障害者手帳を取得して、障害者雇用で、児童福祉事業を展開している企業で就業。給与などの条件面は決していいとは言えないが、病気を隠さず働けるのはありがたいと述べている。

 著者も痛感したことだが、この病気は症状が曖昧で正しい診断がされないことも多く、周囲からは「怠けている」「大げさ」などと誤解されることも少なくない。しかし本書を読み進めると、大変な病気であることが分かる。同時に、もしかしたら過去に出会った人に、病気とは知らずに偏見の目を向けていたのではないかと、ハッとさせられた。それほどに、本書で語られる体験は苦痛に満ちたものなのだ。

 精神科系疾患への理解も少しずつ進み、一昔前よりは受診のハードルも低くなった。とはいえ、今も偏見や誤解はなくなっていない。社会(社交)不安障害に限らず、様々な障害のある人が生きやすい社会を作るには、症状についての正しい知識を持ち理解することが大切。その一助となるであろう本書を、ひとりでも多くの方に手に取っていただきたい。

文=松澤友子