母が死んで、父は料理を始めた――とある雪国で日々巻き起こる、様々な家族のカタチ

小説・エッセイ

公開日:2017/10/12

『みさと町立図書館分館』(髙森美由紀/産業編集センター)

 田舎の図書館(分館)に勤務する契約職員の山本遥(やまもと・はるか)。33歳独身(ちょっとぽっちゃり)。実家で父親と2人暮らし。『みさと町立図書館分館』(髙森美由紀/産業編集センター)は、雪国で巻き起こる、様々な家族の形を描いた、ほっこり笑えるハートフル・ストーリーだ。

 図書館での仕事は「ままならない」ことが多い。登録上、貸出中になっているのに、「本を返却した」と言い張る人。本を汚しておいて、弁償をお願いすると「それじゃあもう図書館で借りねーよ!」と逆ギレする人。賃貸トラブルにクレーム対応……そんな図書館業務でも、遥はまぁまぁ楽しんでいる。

 3年前、母親が亡くなった。父親が定年退職した後、家族3人で温泉へ行こうという約束を果たすことなく、逝ってしまった。父親は生きる気力を失くし、遥を心配させたが、料理を覚えてから、少しずつ元気になっていく。

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 大切な人を失くした悲しみを抱えながらも、田舎の雪国で生きている父親と遥。遥は、そんな父親と暮らしながら、図書館で働いているがゆえに、見えてくる「地域の人々の生活」に触れていく。そこには、様々な家族のカタチがあった。

 大豪邸を建てたのに、息子夫婦と一緒に暮らせなかったケチで偏屈なおばあさん。祖父母を安心させるため、相手もいないのに結婚するとウソを吐いてしまった30代半ばの女性。家族と一緒に暮らしたくない男性。家族と一緒に、いつまでも暮らしたかった遥。

 様々な家族のカタチを見ながら、遥は今日も図書館で働いている。

 本作の主人公、遥は、家族が好きだ。しかし、母親がいなくなってしまい、いつまでも当たり前のように続くと思っていた生活が変わり、戸惑いながらも、日々を暮らしている。その姿が、素直に心に刺さる物語だった。

 最近は、毒母やら、実家に縛られて苦しんでいる女性やら、家族というものに対して、ネガティブな主張が目立っている気がする。しかし、遥は実家暮らしであり、料理はするけど片づけをしないという父親がいながらも、「実家に縛られている」とは感じていない。むしろ、居心地がいいと思っている。だからこそ、母親を亡くしたことは、家族にとって大事件だった。
その大切な家族が一人欠けて、そこから立ち直っていく父娘の姿が丁寧に描かれており、ものすごく劇的なことは起こらないけれど、「家族を想う」その遥のまっすぐな姿が、「家族は大切」という「当たり前」なことを、「当たり前」に感じさせてくれた。

 様々な家族のカタチがある。どんなにイビツでも、そのカタチを作っているのは、家族一人一人の「愛」なのかもしれない。

文=雨野裾