「ロングセラー=良い商品」ではない!? 30年前のシャーペン「スマッシュ」が売れるワケ

暮らし

公開日:2017/10/19

出典:「ぺんてる スマッシュ」公式サイトより

 例えば、ヴィンテージのギターには、とても良い音が鳴るものがあるように、何にせよ、昔のものだから今のものより劣るということはない。もちろん、昔のものが何でもいいなんてことはないのも当たり前だ。ヴィンテージだからといって必ずしも良い音がするとは限らない。

■30年前の製品が大人気のワケ

 ぺんてるのシャープペンシル「スマッシュ」が、30年前の製品なのに、今の中高生に大人気というのも、別に驚くような話ではない。ノック式シャープペンシルを開発し、製図用シャープペンシルの名作をいくつも作っているぺんてるが、製図用シャープの良さを一般向けにリチューンした、言わば、勉強のプロたる学生のために作ったシャープペンシルなのだから、その基本性能が違うのだ。そして、「書く」という行為は30年前も今も、やっていることは同じ。ならば、それが昔に作られたものでも関係なく書きやすいし、当時から丈夫だったのだから、今でも当然丈夫だ。優れた道具というのはそういうもので、だから、長く使えるし、ずっと使いたいと思える。

■売れ続けている=良い製品、とは限らない?

 しかし、面倒くさいのは、ロングセラーだからといって、必ずしも良い製品だとは限らないというところだ。何となく、長い間売れ続けているから、当然凄い製品だと思いがちだけれど、そうでもない製品もいっぱいある。それは、沢山売れているから良い商品とは限らないというのと同じで、何となく、多くの人が、使いにくさとかを感じながら、でも他に良いものがあることを知らなかったり、そのジャンルの中では一番ましな製品だったりで、使い続けてしまうということは、意外によくあるのだ。そうでなくても、他に良い製品はいっぱいあるけれど、どうしてもそれでなければ、という人がいるから、作られ続けているというモノもある。

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 実際、私たちは「良い」から使うとは限らないのだ。「馴染んでいる」から使う、「他に知らない」から使う、「いつも手元にある」から使う、モノを使うというのは、案外、そういう事だったりする。私は中学生の頃、家にあったクラシックギターを使ってフォークソングを弾こうとして、あまりにも上手くいかず挫折した経験があるが、その時、フォークギターを使えば、もっと簡単に弾けるなんて考えもしなかったのだ。知らないというのは怖いことだし、逆に、クラシックギターでせっせと練習したから、後でフォークギターを持ったら凄くうまく弾けたという人だっているから、知らないということがいい方に回ることもある。

 例えば、カッターナイフは、それはそれは凄い日本の発明品なのだが、その便利さを知らない人も多い。あらゆる刃物は、使っていると切れなくなるから、研いだり替えたりと、メインテナンスが必要。しかし、カッターナイフは切れなくなったら刃を折れば、あっという間に新品の刃になる。最近は、刃を厚くして、折らなくてもある程度は切れ味が持続するタイプも出ていて、それはそれで良いけれど、しかし、カッターナイフの愛用者は、30年、40年前の製品をずっと使い続けている人が多いし、オルファ、NTカッターといった専門メーカーも、当時のままの製品を出し続けている。機能的な完成度が高い道具は、新しいものも古いものも、出来る事は変わらないから、手に馴染む方を選ぶわけだ。

■復刻されても、実は買わない消費者

 ただ、私たちは勝手だから、例えば、昔の名品が良かった、復刻してくれれば買うのにとか言う割に、本当に復刻したら、買わない人が多くて、結局、また入手できなくなるというケースも多い。かつて、秋本治著「こちら葛飾区亀有公園前派出所」で、GIジョーの説明をしている両さんがいきなり怒りだすシーンがあった。「復刻したら欲しい欲しいと言っていたくせに、お前らが買わないから!」というようなことが、しっかりと描かれていた。

 結局のところ、「良いもの」が欲しいという人は少ないのだ。「スマッシュ」のヒットは、現役の学生に人気だから、本気で使いたい人が買うから、きちんとヒットになる。でも、どれだけ便利な製品であっても、今使っている「これ」でもいいやと、多くの人が思う。

 現行製品よりカッコよくて、使える製品なんて、実際はいっぱいあるけれど、それを復活させても大して売れないのが実情。それは、古書価格が高騰している本を復刻してもベストセラーになるわけではないのと同じ。でも、だからこそ、大ヒットを狙うのでなく、良いモノを残して欲しいと思うし、合理化と効率化のためのマイナーチェンジには慎重になって欲しいと、メーカーにはお願いしたい。意外に、作ってる人たちが分かってなかったというケースだってあるのだ。ラミー「サファリ」のクリップが銀になったの、今でも、なんだかなあと私は思っているよ。

文=citrus フリーライター 納富廉邦