企業破綻の山一證券で女優に転身した人もいた!? 老若男女のすべてに捧げられたモトヤマ(元山一證券マン)たちからのエールの書

社会

2017/11/20

『空あかり──山一證券“しんがり”百人の言葉』(清武英利/講談社)

「号泣会見」といえば、今でこそ某・元兵庫県議員の謎の釈明会見が有名だ。しかし、中高年世代にとっては、1997年11月24日、自主廃業を決めた山一證券の当時の社長、野澤正平氏による謝罪会見は、忘れがたいものだった。

 その席上で野澤氏は、たくさんの報道カメラとその向こうの何千万という視聴者を前に、はばかることなく「悪いのは経営幹部で、社員たちは何も悪くないんです」と号泣した。

 筆者はどちらの会見もタイムリーにTVで見ていた。特に後者の場合、号泣するその姿を少しも笑う気にはなれなかった。グループ全体で1万人ともいわれた人々が、いわば突然、収入と行き場を失ったのである。その涙が、決して社長ひとりのものではないことは、だれの目にも明らかだった。

『空あかり──山一證券“しんがり”百人の言葉』(清武英利/講談社)には、そんな歴史的な企業倒産を体験した、モトヤマ(元山一社員の意)102名が登場し、当時の悔恨、転職後の体験、人生を通して得た境地、心の支えとなった言葉や人物、人間関係などを思い思いに語る。

 彼らのその後の人生ドラマは、まさに十人十色だ。転職後、山一時代より成功した人。大企業という看板を失い、自分の真の価値に気づいた人。起業し、モトヤマたちを集めて再出発した人etc.

 本書に登場する天明留理子さんを分類するなら、「新たな職業に挑戦して、自分の可能性を再発見した人」である。

 山一時代、秘書室勤務だった彼女は現在、劇団「青年団」所属の女優で、WOWOW制作の連続ドラマ『しんがり~山一證券 最後の聖戦』(2016年、主演:江口洋介)『石つぶて―外務省機密費を暴いた捜査二課の男たち―』(2017年、主演:佐藤浩市)にも出演した。

 このドラマは清武氏の前著『しんがり 山一證券最後の12人』が原作で、破綻後も社に留まり、破綻の原因を解明すべく調査報告書を作成したメンバーたちを描いている。「しんがり(後軍)」とは、負け戦において、軍列の最後尾に踏みとどまり戦う兵士たちである。しかし、著者の描くしんがりたちの人生が教えてくれるのは、今回は負けでも、あきらめずに誠実に生きていれば、いつか挽回のチャンスはやって来る、ということだ。

 ドラマに登場する記者会見のシーンで、不正を追及する記者役で出演した天明さんは、撮影時に渡された小道具の報告書を手にして驚く。それは実際にしんがり12名が作成した調査報告書の現物コピーだった。

「このとき、(私は)そばにいた」と、撮影現場なのに、混乱の最中にいた当時の自分や忘れかけていた会社上層部への怒りが思わずフラッシュバックする。しかし人生は奇なるもので、いまは女優として立派に歩んでいる。

 そんな彼女を支えた言葉は、「The Best is yet to be(最上のものは、なお後に来る)」だという。

 本書は、先行き不透明な現代社会を生きる、老若男女のすべてに捧げられたエールの書である。
 転職後、再び会社の破綻やリストラに直面した人、経済的な困難と重病の発症に悩まされた人ほか、いばらの道を歩んだ人も多く登場する。
 しかしすべての人の心に共通しているのは、“どん底はもう見たし、なんとかなる”という希望の灯だ。

「人間は考える葦である」とはパスカルの名言だが、どんな逆風にさらされようとも折れることなく、知恵を絞って生き抜く人々の姿は、たくましく美しい。

 本書に登場する102名の色とりどりの人生、そのいずれかにきっと、あなたは気づきを得るだろう。そして、よし頑張ってみるか、と勇気をもらうのだ。

文=町田光