アメリカでは正体不明の神戸牛が大流行?! 意外と身近にある“偽物”の食品

社会

2017/11/21

『その食べ物、偽物です! 安心・安全のために知っておきたいこと』(ラリー・オルムステッド:著、依田光江:訳/早川書房)

 テレビの食レポで高級な牛肉を食べたレポーターが「肉が溶けた!」とよく言う。「溶ける」という言葉はいかに肉が美味しいかを表す使い古された比喩だと思っていた。ところが先日、それがそのままの意味であることを知った。宮崎県の高千穂町までドライブに出かけて、休憩がてらたまたま立ち寄ったところが高千穂牛の専門店だった。高千穂牛は「全国和牛能力共進会」で内閣総理大臣賞を受賞しているブランド牛である。注文したのはロースステーキ。口に入れて数回噛んだだけで本当に舌の上でスッと溶けてなくなってしまった。脂が網の目のように張った美しい霜降りだからこそなせるワザらしい。

 後日、ある旅館のコース料理で美味しそうなステーキが出てきた。ひと口食べて箸を置いてしまった。柔らかすぎて何か別の食べ物を口にしているようで気持ち悪くなってしまったのだ。チェックアウト時に「お肉は美味しかったですか?」とわざわざ聞かれたので試験的に出されたものらしい。あれはたぶん、肉を人工的に結着した今流行りの成形肉というものだと思う。つまり、“偽物”のステーキである。

 たまたま直前に“本物”の牛肉を食べていたからまずいと思えたが、いつもゴムのような牛肉を食べている私は旅館のステーキをこんなものかと食べていたかもしれない。『その食べ物、偽物です! 安心・安全のために知っておきたいこと』(ラリー・オルムステッド:著、依田光江:訳/早川書房)を読むと、偽物は思ったより身近で蔓延していることを思い知らされる。本書は世界の有力紙に食と旅に関する記事を寄稿するジャーナリストが世界中の食品産業関係者を取材し、食の偽装を暴いて本物の素晴らしさを説くノンフィクションである。

 例えば、シャンパンやパルメザンチーズもそうだ。シャンパンはフランスのシャンパーニュ地方で生産される発泡ワイン。シャンパーニュ以外で造られたらシャンパンじゃない。ところが、アメリカでは「米国産シャンパン」なるものが販売されているそうだ。日本でもクリスマスの時期になると「子ども用シャンパン」という飲み物をよく見かける。パルメザンチーズはパルミジャーノ・レッジャーノのこと。イタリア北部の都市・パルマで作られるチーズである。これにはひとつひとつにロット番号がついているそうだ。私の家の冷蔵庫にも緑色の筒に入ったクラフト社の「100%パルメザンチーズ」がある。だがロット番号などない。つまり、名ばかりの偽物なのである。

 偽物でも安くてそれなりに美味しいならかまわないという意見もあるかもしれない。かく言う私もより安いものを選びがちだ。だが、アメリカで神戸牛こと「コーベ・ビーフ」が横行していると聞くと、それは大丈夫なのかと眉をひそめてしまう。神戸牛は日本がその品質と味を誇る和牛のひとつだ。血統と品質が厳格に管理された兵庫生まれの純粋な但馬牛で、90%は日本国内で消費される。残念ながらこれこそテレビの中でしか見たことがない。だが、アメリカでは多くのレストランで「コーベ・ビーフ」が供され、「コーベ・バーガー」「コーベ・ホットドッグ」というメニューが流行し、さらには「アメリカン・コーベ・ビーフ」「アメリカンスタイル・ワギュウ・コーベ・ビーフ」という摩訶不思議な食べ物まであるそうだ。もはやここまでくると日本人として鼻が高いが、日本の安心・安全なブランド牛だと思って食べているならば気の毒な話である。

 ほとんどの消費者はまさか偽物だとは思っちゃいない。だが、偽物など知らないという態度では粗悪な品を掴まされる可能性もあるし、何より本物を丹精込めて作っている生産者がバカを見ることになる。じゃあ偽物を見分けるにはどうすればいいのかと問えば、著者は本物を知ることだという。そうしたいのは山々だが、そのためにはお金がかかるし、安く手に入れるためには現地まで赴かないといけない。せめて偽物の存在を知るためのアンテナを張っておくことは必要だと思う。食の安全に関心を持ち、何が原材料になっているのか、どのようにして作られているのかをいったん立ち止まって考えることができる賢い消費者になりたいものだ。

文=林らいみ