映画『IT』は恐怖の入り口に過ぎない…… スティーヴン・キング原作で結末を見届けろ!

小説・エッセイ

2017/12/6

『IT』(スティーヴン・キング:著、小尾芙佐:訳/文藝春秋)

 11月3日の公開以来、「本当に怖い!」との感想がネット上を駆け巡り、異例の大ヒットを記録しているホラー映画がある。アンディ・ムスキエティ監督の『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』だ。先日わたしも都心のシネコンに足を運んできたが、公開から20日経った平日の真っ昼間にもかかわらず劇場はほぼ満席。ブームの大きさをあらためて実感した。

 さて、本が好きな方ならこの映画に原作があることはご存じだろう。スティーヴン・キングが1986年に発表した長編小説『IT』(スティーヴン・キング:著、小尾芙佐:訳/文藝春秋)がそれである。キングといえばデビュー長編『キャリー』を筆頭に、『シャイニング』『ミザリー』『ショーシャンクの空に』『ミスト』『ダーク・タワー』など、これまで数多くの作品が映画化されてきたホラー小説の巨匠。『IT』はその膨大な作品の中でも、ひときわ高い完成度と人気を誇る傑作だ。

 1985年、アメリカ・メイン州の田舎町デリーでは、不可解な行方不明や死亡事故が相次いでいた。まるで27年前の惨劇をなぞるかのように……。旧友マイク・ハンロンからの電話を受け、「あれ」がまた始まったことを悟ったビル・デンブロウらかつての仲間たちは、少年時代の約束を果たすため、仕事をなげうってデリーに結集する。大人になり、守るべきものが増えたビルたちは、11歳の夏のように町に巣くった怪物(=IT)を倒すことができるのだろうか――。

 今回の映画版との大きな違いは、原作では1985年(現代)と1957年(過去)という2つの時代が並行して描かれてゆくところだろう。映画は長さの都合からか、ビルの少年時代に的を絞ったストーリーが展開していたが、本来『IT』は2つのパートが重なり合い、響き合いながら壮大な物語を紡いでゆくところに醍醐味がある。つまり映画を観ただけでは、その半分を味わったことにしかならないのだ(映画は続編が制作されるとも聞いているが)。映画のラストで「この後どうなるの!?」と叫んだ方、ちゃんと続きがあるのでご安心を。原作でその全貌に触れてみていただきたい。

 ちなみに少年編に限っていうなら、今回の映画はかなり原作に忠実だ。作中時代こそ1980年代に変更されていたものの(そのため流行っている音楽や映画が異なる)、巨大な恐怖に向き合うことで成長してゆく少年少女、という原作のポイントはしっかりと押さえられていた。あのピエロのモンスター、ペニーワイズも原作どおりの邪悪さだ。ただひとつ残念だったのは、ビルたちによる「ダム作り」のシーンが描かれなかったこと。かけがえのない少年時代の輝きを印象づける、原作でも屈指の名シーンなのだが、映画版ではカットされてしまった。ここも原作版をおすすめする大きな理由のひとつだ。

 原作は文庫本にして全4冊。一瞬長いと感じるかもしれないが、心配は無用。読み出したらページを繰る手が止まらなくなり、「いつまでもこの世界に浸っていたい」と思うようになるはずだ(もし人生最高の読書体験をあげろと言われたら、わたしは躊躇なく『IT』に夢中になっていた一週間をあげるだろう)。背筋が凍るほど恐ろしくて、何度も読み返したくなるほど感動的。物語のすべてが詰めこまれた傑作中の傑作なので、まだ読んだことがないという人は絶対に、絶対に読んでみてほしい。

文=朝宮運河